1月3日


「三が日から部活ってどんだけだよ」


道端の石ころを蹴りあげればコツンと電柱に当たった。快晴だが風があるから体感温度は低い。
1/3。弦ちゃんの家を尋ねるともう部活に行っちゃって、と返された。あのあと結局、弦ちゃんは何も話さなかったし、私も同じように、無言を貫き通した。きっとこのままどちらかが行動しなければ、ずっと話すことはないと思う。私は卒業後この家を出るし、弦ちゃんもいつか私を忘れる。でもそんなのは寂しい。
思い立ったが吉日。立海の場所くらいはこのあたりに住んでいれば知っている。会いに行こう、このまま。弦ちゃんへこの気持ちをぶつけに。






「弦ちゃんって、存在感あるなぁ」


知らない学校に潜入するのは少し怖かったけれど、こっそりとテニスコートを観察する。このまま終わるのを待っていれば、ちゃんと話しをする機会があるんじゃないか。そんな考えで、現在テニスコートの近くの茂みにいる。ちなみに寒くて後悔もしてる。
ぱこんぱこんと小気味良いリズムでボールを打ち合う彼らは、こんなに寒いのに楽しそうだ。小学生だったころ、弦ちゃんがテニスをすると言ったときには驚いたけれど、今の弦ちゃんをると、いいものに巡り会えたんだなって思う。


「ほんと、いつの間にこんなに大きくなっちゃったんだろ」









「ありがとうございましたー!」

「……はっ!」


どうやらいつの間にか寝ていたらしく、彼らの解散の挨拶(だと思われる)て目が覚めた。そそくさと茂みから出て校門へ向かう。こういう時に自分が方向音痴じゃなくてよかったと痛感する。こんなところで迷ったらひとたまりもない。
立海は大きくて歴史のある学校だ。校門さえ、普通の学校とは格が違うように感じる。もたれかかり、ぼんやりと空を眺めていると、いつの間にか校門の人の通りが多くなっている。テニス部の子達であろう彼らはこちらを見て何かヒソヒソと話し、私が視線を流すとそれをやめる。なんだ、このアウェーな感じ。


「…名前ッ!?」

「…やっほ、弦ちゃん。」

「な、なぜここに名前がいるんだ」

「弦ちゃんのお母さんに聞いたんだよ、部活に行ったってね」


わかり易く動揺する弦ちゃんにカツカツ詰め寄って、逃げられないように服の裾を掴む。周りのテニス部員が一気にざわめいた。


「話があるの、一日のことについて。時間あるよね?なくても時間取るよね?」

「…すまぬが今日は部活の」

「あれ?今日って部活終わり集まることってあったっけ?」

「この柳、そのような記憶はない」

「お、お前ら…っ!」


どうやら周りは私の味方らしい。弦ちゃんは困り果てた顔をして、私と周りに目配せしているけれど効果はなさそうだ。借りていくね、なんて言ってそのまま弦ちゃんを引っ張って歩き出す。あれだけ行っておいて自分は逃げるとか、そういうのはやめて欲しい。服じゃ伸びちゃうから腕を掴み、そのまま道を行く。


「弦ちゃん、私ずっと弟みたいって思ってた」

「…」

「だから弦ちゃんが姉みたいに思ってないって言ったとき悲しかった」

「…」

「一回しか聞かないから、ちゃんと答えて。弦ちゃんは、私のこと…好きなの?」


歩みを止めて、弦ちゃんに向き合うと弦ちゃんも立ち止まった。何も言わない弦ちゃんがじれったい。私が名前を呼ぶと狼狽し、そして、私の手を振り払い、一人で歩き出す。
振り払われた方の手をギュッと握り、弦ちゃんの方を向き、大きく息を吸う。


「逃げないでよ、バカっ!人をこんだけドキドキさせて、自分は逃げるとか…そういうの、やめてよね!」


はあはあと息切れしながら叫ぶと、弦ちゃんの足が止まった。私を見る目は少し泣きそうで、こんな顔いつ以来だろう、なんて思ってしまう。ゆっくりと近寄って隣に立つ。横から腕が伸びて、私の腰を抱いた。…なんだか、この前の時みたいだ。ゆるく私を抱きしめる弦ちゃんは、少し震えている。


「名前は一回しか聞かないと言ったが、何回でも聞けばいい」

「…なんで」

「俺は、何回でも言おう。お前が、名前が好きだと」


弦ちゃんの襟首を掴んで、無理やりキスをする。背丈があるぶんうまくできなくって、勢いのせいで鼻がぶつかったけれど、そんなのはどうでもいい。離れた唇から漏れた吐息にドキドキする。


「お、まえは…なんで、こんな」

「…ここでやってわかんないとか言わないよね?」

「俺には言わせておいて、お前は逃げるのか。俺は、名前の口から、聞きたい」


そう返されると、言わないわけにはいかなくなってしまう。手を腰に回し、胸に顔をうずめる。弦ちゃんって、こんな匂いがするのか。どくんどくんと騒がしく動く心臓を沈めて、口を開く。


「大好き」



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