1月1日


「…おまたせ、あと、あけましておめでと」

「ああ、明けましておめでとう」


鳥居のそばに立っている弦ちゃんに駆け寄り、挨拶をする。結局後片付けなどをやって終わったのは午前2時。あけおめメールでいっぱいのケータイを開き、電話をかけると、弦ちゃんは「鳥居の近くにいる」などと言い放った。まさか…と思い尋ねれば、参拝後、実はずっと待っていたことが判明、大慌てで弦ちゃんの元まで走った。


「寒かったでしょ、こんな遅くまで…言ってくれれば断ったのに」

「だから言わなかったんだ」

「はぁ?」

「こんな夜遅く、しかも浮ついている者も多い。そんな中をお前一人で帰せるか」

「弦ちゃん…あんた、いつの間にこんなかっこいいこと言えるようになっちゃったのよ…」


あんなちっちゃかった弦ちゃんがいつの間にかこんなこと言っちゃうくらい成長するなんて…。からかうように言うと、弦ちゃんは口にてを当てて、私から目をそらした。


「…行くぞ」

「え、ちょっまって」

「このままではどんどん遅くなる」

「そうだけどっ!弦ちゃん足速いって!」


なんだなんだ、さっきまではあんなスマートだったくせに。非難するように見ると、せかせかと歩く弦ちゃんの耳が赤い。あ…なんだ弦ちゃんもしかして照れてる?かっこいいこと言ったって弦ちゃんは弦ちゃんだし、良く考えたらまだ中学生だ。


「なーんだ、弦ちゃんもかわいいとこあるじゃん」

「…やめてくれ」

「なによぅ!照れてるくせに!」

「っ!こ、これは別に!照れているわけではない!」

「またまた!」

「大体名前は昔からそうだ。俺のことをそうやって弟扱いして、それが、ずっと…」

「…ずっと?」


弦ちゃんから返答はない。昔からずっと、なんなの?あんなに早かった足がいつの間にかゆっくりになり、ついに止まった。どうしたの、と言って裾を引っ張って聞いてみるけれど、弦ちゃんは後ろを向いたまま何も返してくれない。私は、聞いちゃいけないことを聞いてしまったんだろうか。


「弦ちゃん」


ぐるんと弦ちゃんがこちらを向いたと思えば、私の視界は黒で埋め尽くされた。上を向くとガサリとナイロンの擦れる音がするだけで、ただ黒で多い尽くされている。背中に回された腕と、上から聞こえる、私を呼ぶ弦ちゃんの声。私、抱きしめられてる?
そうやって今の状況を確認した途端、あんなに冷えていたはずの体がぼっと熱くなる。なんで、こんな急に。弦ちゃんって実はそういう子だったの?


「嫌だった、俺は名前のことを姉のように思ったことはなかったのに」

「げ、ん…」

「好きだ。姉だとかそんなんじゃなくて、ただひとりの女として、好きだ」

「そんな、こと…言われたって…」


弟みたいだってずっと思ってたのに、そんなこと言われたって、私はどうしたらいいのかわかんないよ。男の子に抱き締められるのも、好きだなんて言われるのも、初めてなんだもん。そんな私にどうしろっていうの。
戸惑う私を置いて、弦ちゃんはそっと背中に回していた腕をほどき、歩き始めた。こんなドキドキさせといてほっとくって、どうしてくれんの、弦ちゃん。


「…帰るぞ、親御さんも心配するだろう」

「…言われなくったって帰るわよ」


前を歩く弦ちゃんと昔の小さかった頃の弦ちゃんとが重なって、消えた。



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