12月28日


大学受験が推薦により早く終わった私は、冬休みを持て余していた。課外はなく課題もなく、だからといって予定もない。
時計を見ると11時半を指している。たしか今日は家族みんな出かけているんだっけ。机の上のご飯代を握り、コンビニを目指す。一人カフェでランチ、なんて勇気は持ち合わせていない。

ピンポーン

玄関でブーツを履こうとしたとき、タイミングよくチャイムが鳴った。返事をすると、引き戸が音を立てて開く。


「あれ、弦ちゃん?久しぶりだね?」


私の言葉に久しぶりです、と答える弦ちゃんこと弦一郎くんは、近所に住む男の子だ。小さい頃はよく遊んでたなぁ…なんて昔を思い出す。今の彼は年下というのが信じられないくらい大人びて見える。


「どうしたの?回覧板って弦ちゃんのお家から回ってきたっけ?」

「いえ、今日家で餅つきをしたのでおすそ分けに。名前…さんは、今から出かけるところでした?」

「ううん、平気だよ。ってお餅!?いやー嬉しいなぁ…そういえばちっちゃい頃は弦ちゃんの所で餅つきさせてもらった気がする。まだやってるんだ」

「今年は張り切りすぎたみたいでもち米を多く買ってしまい…」

「ああ、だからか」


弦ちゃんの敬語に違和感を感じながらも、差し出されたお餅を受け取ってお礼を言う。今まではこういったおすそ分けなんてなかったから、ちょっと新鮮。
弦ちゃんと私は3つ違ったのでたしか中学3年生だ。受験は大変なの?と尋ねれば立海に通っているからと答えられて納得する。そうだ、弦ちゃんは立海に通ってるんだっけ。たまにお母さんが「弦ちゃん、立海のテニス部で全国優勝したんですって」とかなんとか言っていたような気がする。


「弦ちゃん元気?」

「はい」

「そっか。……あのさ、敬語とかいいよ。なんかむず痒い。今までは私のこと名前ちゃんって呼んでたのに」

「ですが」

「ほら、いいからお願い。言い方を変えた方がいい?変な気を使われるの嫌だ」


私が言うと、弦ちゃんは渋々と返事をした。そういえば、どこかに出かける予定だったのではないか?なんて言われてハッとする。これからご飯食べに行くつもりだったんだよ、と返せば途中まで送っていくなんて言われた。スマートな中学生がいるもんだ。





「あ、そうだ。どうせなら弦ちゃん家にお礼言いに行きたい。ダメ?」

「別に構わんが」

「よかった!そういえば弦ちゃん家久しぶりだ」

「名前が中学に入ってからは来なくなったな」

「そりゃいろいろ忙しいもの」


私が頼んでも名前ちゃんとは呼んでくれない弦ちゃんは、懐かしそうに目を細めた。昔のことを思い出しては、今の弦ちゃんと比べてしまう。あまり変わっていないようで、どこかが違う。体だけじゃなくて、もっと何かが、確実に変わっている。そんな気がした。

弦ちゃんの家にお礼を言うと、そのままあれよあれよとお昼ご飯をご馳走になり、気がつけば弦ちゃんの甥である佐助くんの遊び相手になっていた。遊びたい盛りの彼の相手は疲れるけど、こういうのは嫌いじゃない。馬になり肩車をし…私がクタクタになり、佐助くんが疲れて寝てしまった頃、弦ちゃんのお母さんが入れてくれたお茶を飲みながら、こたつに入った。


「すまんな、付き合わせてしまって」

「別にいいよ。お昼いただいちゃったしね。それにしても佐助くんかわいかったなぁ、名前姉ちゃんだって」

「俺はオジサン呼ばわりなのにな」


やさぐれた雰囲気で言う弦ちゃんにはひどいけど、確かにお兄ちゃんってよりオジサンの方が雰囲気的にはあっている。口が裂けても言えないけど。


「そういえばさ、弦ちゃんは私のことお姉ちゃん呼んでくれたことないよね。なんで?」


私を名前で呼ぶけれど、お姉ちゃんとは一度も呼ばなかった。今までは気にしたことなかったのに、ふと考えてしまうと気になって仕方ない。私の問に嫌そうな顔をして弦ちゃんは、ぼそりと爆弾を落とした。


「俺が名前を姉のようだと一度も思ったことがないからだ」



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