∵荒木と幼馴染み
→2014/09/15


「ねえ、まだ終わんないの?」


私の問に荒木はうんとかあーとか、から返事しか返してこない。いい加減あきてきたんだけどなぁ。家庭用ゲーム機に繋がれたコントローラーを手にとって適当なボタンを押してみても何も起こらない。そりゃそうだ、だって私はとっくにゲームオーバーになってるんだもん。
私と荒木は幼馴染みだ。だからといってずっと一緒じゃないし恋人でもない。中学校までは同じだったけれど、私は彼の通う江ノ高よりもワンランク上の偏差値の学校へ通っている。仕方が無い。私と荒木じゃ脳みその出来が違うんだから。


「ねえ荒木、私もう帰ってもいい?」
「やだ」
「なによ、やだって。私おいてゲームしてるなら帰ってもいいでしょう?」


丁度家の前についたところで、ばったりと荒木と鉢合わせた私は、彼の家に来ないか、という誘いに乗ってわざわざ荷物も置かずに出向いたというのに。放置なら私の居る意味ってあるの?


「お前は見てろっての」
「やだよ、私ゲーム詳しくないし。すぐゲームオーバーだったし」


なんで私は彼の家に来てしまったんだろう。別に今更話すこともないというのに。話しているのは私なのにこちらを一瞥もしないでテレビを見て話をする荒木に、だんだんと怒りが湧いてくる。私だって暇じゃない。課題もあるし予習だってしておきたい。偏差値が微妙に高いとそこらへんがめんどくさい。


「つまんない」


私のつぶやきにびくりと荒木の肩が揺れる。もう一度つまんないよ、と言えば、荒木はようやくこちらを向いた。ゲーム画面はポーズと出て動きが止まっている。へえ、そんな機能あるんだ。


「昔はお前俺がゲームしてると応援してくれたよな、竜くん頑張れって」
「してないね」
「した。俺の隣座ってキャッキャ言いながら」
「荒木…それ妄想じゃないの?」


私は竜くんなんて呼んだ記憶がなければ荒木とゲームした記憶だってほとんどない。ゲームに関してはあるといえばあるけれど、彼の言っている通りか思い出せないほど昔の話だ。


「妄想じゃねーし」
「私そんなの覚えてないんだけれど」
「そんなのお前が忘れてるだけだろ」
「荒木が覚えていて私が覚えてないってそんなことあるの?」
「…やめろよ、その荒木っての」
「は?」
「昔みたいに呼べよ」


わからない、コイツが、全く理解できない。幼馴染みだけれど、きっとそれなりに長い時間を過ごしてきたけれど、けれどこんな荒木は初めてだ。真剣な顔、こういう顔は前に…そうだ、小学校の頃に荒木のサッカーの応援に行った時の顔と似ている。変なの、こんなに大きくなったのに同じ表情をするなんて。


「竜ちゃん」
「え?」
「竜くんじゃなくて竜ちゃんだよ、私昔はそう呼んでた。多分だけどちゃん付けはやめろって言ってたから竜くんだと思ってたんだろうけど」


そう言われてもかたくなに竜ちゃんって呼んでたっけ。懐かしいなぁ。大体元を正せば荒木と呼べって言い出したのはコイツなのに、それを元に戻せって…横暴なんだから。どこの王様よ。その本人はさっきまでの真剣そうな顔はどこに行ったのか子供っぽい顔で笑っている。やっぱり、今も昔も変わらない表情をするんだね、竜ちゃんは。


「竜ちゃん」
「なんだよ」
「どうして、急に私を家に呼んだの?」


一番聞きたかったこと。ずっとこの家に来てから不思議だったこと。挨拶だけで終わらずに家に呼んだ彼が不思議で、それに答えた私自身も不思議で仕方なかった。


「お前、なんで違う学校に行ったんだよ」
「え?」
「どうせ江ノ高だと思ってたら入学式いねーし、朝見かけたら進学校の制服着てるし、幼馴染みなのに、何も言わないし…」


もう私達高校2年よ、竜ちゃん。それ聞くの遅くない?気になってたのならさっさと聞けばいいのに。私が笑うとちょっと怒って笑うなと言われてしまう。ごめんね、と平謝りして竜ちゃんと向き合う。なんだろう、こうやって話すのって懐かしいね。


「今の学校に通ってるのは先生と親に進められたから。竜ちゃんに言わなかったのは…」
「言わなかったのは?」
「…迷ったんだけれど、結局言えなかったんだよね。あの頃ってよく人に囲まれていたし」


竜ちゃんはちょっと馬鹿だけどモテた。サッカーが得意だったし、よくわかんないすごい選手に選ばれたりもしていたし。本当は、違う学校に行ったのもなんだか置いていかれるような気がして…確かに勧められもしたけれど、別のちょっと頭のいい学校に入ったのだ。もちろんそんなことを言うつもりはないけれど。


「別に気にすんなよ。俺達、幼馴染みだろ」
「そうだけど」
「これからはなんかあったら言えよな」


な、な、なんなんだ今日の竜ちゃんは…やけにグイグイくる。戸惑う私をおいて竜ちゃんは語りはじめる。それにふんふんと頷くけれど、あまり頭に入ってこない。そういえば、前はかなりのおデブさんだったのに今じゃこんなに痩せて、かっこよくなってしまった。だからきっと私ちょっと変なんだ。おかしいもん、私が竜ちゃんにドキドキするなんて、ありえない。


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