∵飛鷹と引きずる提督
→2014/08/03


「提督!」
「ん?なにかな?」

提督は少しだけ変わってしまった。それを感じ取っている艦娘はあまり多くはない。

「次の出撃は、どうするの」
「そうね…遠征をこなしてから鎮守府近くの…」
「ねえ、いつまでそうしているつもりなの」
「え?」
「いつになったら提督は、前に進めるようになるのよ」

優しかった提督はそれを通り越して過保護になっている。全ては彼女の…赤城の轟沈からだ。帰投した私達を迎えたあの提督の顔を、私は一生忘れられないだろう。

「飛鷹、私はね」
「轟沈が怖いのはわかるわよ!私だって轟沈なんてする気更々ないわ、だけどね!それでも私は、私達はッ前に…進まなくっちゃ…」

激情していた声がだんだんと小さくなる。提督が、泣いている…彼女の泣いている姿を見たのは赤城が撃沈した夜ぶりだ。何度も、轟沈して、提督を変えてしまった彼女を恨んだというのに今度は私が泣かせてしまった。違うの、私はただあなたを…提督を泣かせたいのではなくて、前みたいにまた笑って欲しいだけなのに…ッ

「飛鷹、すまない、すまないね。私が不甲斐ないせいで、君にそんなことを言わせてしまったのね」
「やめて提督、そんな、私は平気だから」
「平気なことがあるものですか。わかってはいるのさ、私は彼女の轟沈を引きずってでも前に進まなくてはならないと」

提督が席を立ち、私の目の前にきた。久しぶりに見た彼女の笑顔はどこか遠くて悲しげで、それがひどく辛い。ふと私の鼻をくすぐる黒い夜みたいな髪と柔らかなにおい、腰に回された腕や触れた面から伝わるぬくもり。私、提督に抱きしめられている?そんな、らしくない。

「ありがとう飛鷹」
「私は、別に…」
「君の言う通りなんだよ、私はただ怖くて前に進めないでいる」
「…提督」
「お願いよ飛鷹、お願いだから沈まないでおくれよ」
「当たり前じゃない、そう簡単に私が沈む負けがないでしょう?なんていったって私は飛鷹型軽空母艦のネームシップで、あなたの…秘書艦なんだから…」

頼りにしていると私から離れて、そして前みたいな溢れんばかりの笑顔を向けた提督に今度は私が泣きそうになる。
弱い人だ。いや、人間はみんな、こうも脆くて弱いのかもしれない。私、絶対に沈まないわ。あんなくらい海の底に沈むのなんて、こんな弱い提督を置き去りにするのなんて、ごめんだもの。

「私は君が居なくなってしまったら、本当にダメになってしまうよ」

そんな言葉が嬉しいのは、秘密だけどね。




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2-4で赤城が沈んだ時はつらすぎて寝込んだ
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