買い物帰り、店名に「M」の付くドーナツ屋の前を通る時、黒田がいつもこっそりと店内を伺い見ていることを杉江は知っていた。

本当は店に入りたいのに、男一人で店に入ることに抵抗を持っていて、更に自分の外見と甘いもの好きのギャップが恥ずかしいとも思っている様だ。

黒田は買い物に行くと何かしら菓子をキープする。さっき寄ったスーパーでもいつの間にか板チョコがカゴの中に入れられていた。

「お前が入れるコーヒーが苦すぎるんだよ」

と言いつつ部屋でコーヒーを飲む時に「仕方なく」を装おって菓子を食べるのだ。
コーヒーが苦いと言う割にミルクや砂糖を入れないあたり、菓子好きがバレバレだった。


しかし
こう毎回物欲しそうに店内を見られては良心が痛む。
別に食べるなとは言ってないし、杉江は黒田がドーナツ屋に入ってドーナツを食べていても違和感など感じない。

(寧ろ、一緒に店に入ってドーナツ食べてるクロ見たいし。絶対嬉しそうに食べるだろうな)

想像したら実現させてやりたくて堪らなくなり、徐に足を止めた。

ドーナツ屋の自動ドアの前。
隣に並んで歩いていた黒田が、杉江を不審そうに見上げた。

「どうした、スギ」

ドーナツ屋と杉江の顔を交互に見て、黒田は何でここで止まるんだと言わんばかりに不機嫌気味に聞く。

「ドーナツ食べて行かないか?」
「な、」

黒田は杉江の言葉を聞いた途端、目を見開いた。
店内を見ていたことが杉江にバレていると気づいたらしい。
みるみるうちに頬が赤くなる。
「嫌なら良いんだけど」
「べ!…つに嫌じゃね、え」

店に入るのを止めようとすると、語尾を小さくしながらも必死にすかさず否定する黒田。

(やっぱり凄く食べたかったのか)


「…店では食べないからな!」
「え、なんで?」
「…」
答えない黒田の店内へ向けた視線を追うと、イートインコーナーには女子高生のグループがいて、杉江は思わず吹き出した。
「ふ、」
「な、なんで笑うんだよ!」
「いや。ふふ、なんでも」
「おいっスギ!」
「ごめんごめん。ほら、早く入ろう」
「てめぇ…!」

店のドアをくぐろうとする杉江の背後には、怒りからか恥ずかしさからか顔を赤くした黒田が俯き加減にぎこちなく歩を進めていた。

こんな黒田が可愛いくて仕方ないんだと本人に言えないことが惜しいと、ドーナツの甘い匂いに包まれながら思う杉江だった。











おまけ



(いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?)

(いや持ち帰りで)

(かしこまりました)

(えーと…オールドファッションと、ポンデリング)

(はい、かしこまりました)

(………)

(クロ、決まった?)

(!?お、おう)

(じゃ言わないと)

(…………)

(クロ?)

(わ、わかってるよ!…
…………ま、マロンクリームフレンチ………エンゼルフレンチ…)

((可愛…!しかも両方フレンチ!!))




‐‐‐‐‐‐‐‐‐
最後は杉江と店員(腐♀)
黒田の甘党捏造…
ほんとあほですみません




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