(今更ですがスギクロ交際開始頃のおはなしだったりします)
(なお且つ変態気味な杉江を許せる方はどうぞ)























クロがジーノに呼び止められ、思わぬプレゼントを嫌々受け取った。
本人は理不尽な贈り物に納得いかないようだ。
礼もおざなりに不機嫌をあらわにして一人歩き出している。
「おら、スギ行くぞ!」
「あ、待てよ」
どんどん先へ行ってしまうクロを追いかけようとしたが、背後からの呑気な声が俺を呼び止めた。

「君にもメリットはあるはずだよ」
背後ではジーノが薄く笑って立っていた。
「…どういう意味だ?」
思うところは大いにあったのに、俺は気付かない振りで聞き返す。
ジーノはサッカー選手らしからぬ華奢な指を口元へやり、笑った。
「知ってた?香りって、案外雰囲気を盛り上げるものなんだよ」
まるで答えにならない答えを返された。
けれど、それは今の俺には十分に理解できる答えだ。直接的な言い方をしないのは俺に気を使ってるのか面白がっているからなのか。
ジーノは俺がクロと付き合い始めたのを察して、今回の一連の出来事を起こしたのだろう。
俺とクロとの関係はチームの誰かに漏らしたことがない(何かと相談に乗ってもらっているドリさんは論外だし、ドリさんが誰かに漏らすなんてことは考えられない)。

「…いつから」

気付いたのはいつからだと尋ねる。
そんなこと聞いたってどうにかなるものではないけれど、突然の事だったので他に反応の仕方がなかった。
「やだなぁ。恋をしている人かそうじゃないかくらい見ればわかるよ」
眉を寄せ不機嫌そうに言う。
「いつだったか、先週くらいかな。ロッカールーム前でクロエが君を待ってるとき。
 それまで君たちってロッカールームに一緒に来たら、一緒に出ていってたはずなのにね」
関係が深くなって目に毒になるものもあるよね、と更に笑みを深くしてこちらを見てくる。
ジーノの言うとおり、クロは先週から着替えを早めに済ませては俺をロッカールームの外で待つ様になった。
クロが今まで以上に俺を意識しているからと思いたいところだが、如何せん本人が何も言わないので真意は定かではない。
本人に聞こうにも、今更聞くのも何だか野暮ったい気がするし、もし俺を意識しての行動なら、そんなクロをもう少し見ておきたいので、まだ聞くには至っていない。
「他のみんなは気付いてないだろうね。正直それ以外は君達の態度って変わってないもの」
つまらない、と言いたげにため息をつく。
ここまで人の恋愛をエンターテイメントとしてとらえるジーノはやはりジーノだなと内心呆れた。
俺は決意してジーノに告げる。
「誰かに話したいのなら無理に止めない。そこはお前に任せるよ」
話すなというのも何だか癪で、もうお前の好きにしろ、と。
そろそろクロを追いかけないと追いつけなくなりそうだ。
「酷いな。僕そんな品のないことしないよ。それに安心してよ、僕はそういうの偏見ないから」
むしろ応援したいんだよ、と指で髪を遊ぶ。
…到底真面目に言っているとは思えないが。
これは彼なりの優しさだろうと思いたかった。
「わかった、ありがとう」
もうそれしか言えなくて苦笑して早口に言うと、俺はジーノに背を向け歩き出した。
いい加減クロに追いつけないくなってしまいそうだ。


「せっかくあげたんだから、ちゃんと使ってよ?」


数メートル背後から、呑気な王子の声が聞こえて、
速足で歩む足元がぐらついた。

(これは本格的にバレるのも時間の問題かもしれない)



***




クロの歩幅は身長のこともあり狭いが、その分歩く速度は早い。
その上、今は不機嫌も合わせて普段よりも早く歩いていたのだろう。
追い付いたのはクラブハウスから2分程歩いた所だった。
ざかざか、と音が聞こえそうなほど力任せに歩いてるクロを見つける。
後ろ姿からは不機嫌そうなオーラが蔓延していて、クロの近くを通っていく人達は皆、クロとの距離を十分に置いて、さっさと通り過ぎていた。
あの雰囲気を撒き散らして不機嫌な顔で歩けば、そうなるだろう。
「クロ!」
俺は追いつくとクロの歩幅に合わせて歩きながら横に並ぶ。
への字に口を噤んだクロが俺を見上げてきた。
「いつまでも何を話すことがあんだよ」
訳のわからない奴、とジーノを批判して苦虫を噛み潰したように苦い顔をこちらへ向ける。
「ジーノが呼び止めるからさ。ごめん」
謝ると、スギが謝ることじゃねえけどよ、と下を向いてと決まり悪そうにした。
そのぶつぶつと言う感じが、何だか子どもみたいで可愛いなと思ったら、もう頬が緩んでいた。
ばれないようにポケットに突っ込んだ右手を出して口を覆う。
「よし、早く帰ろう。腹減っただろ」
誤魔化すように、右掌に息を吹きかけて温める振りをした。
今日は以前から約束していて、俺の部屋で夕飯を食べることになっていた。
「…おう」
香水問題より今は食欲が勝ったのだろう。
クロが少し間をおいて答えた。




***





「スギ、今日何だ?」
俺の部屋に入るなり、クロがそう聞いてくる。
一足先にキッチンに入った俺は冷蔵庫のを開けて材料を確認する。
ニンジン、ジャガイモ、キャベツ、それにベーコンとハーブソーセージ。
顆粒のコンソメがあるので、ポトフができそうだ。
「ポトフかな。あと、スーパーで買ったサバの切身があった気が…塩焼きにでもするか」
「和食か洋食かはっきりしろよ」
クロが顔を顰めた。
「切身ちょうど2切れ残ってんだよ。早く食べないと悪くなりそうだろ」
「…なんだそりゃ」
俺はおまえの食べ残し処理係じゃねえぞ、とぶうぶう言ってくる。
「じゃあクロ作ってよ。洋食フルコース?」
材料ないけど?と笑うと呆れた顔をされた。
「作るか馬鹿」
「じゃ、ポトフとサバの塩焼きでいい?」
「なんでもいい」
ふい、とそっぽを向いて視線をはずす。
そのあとに何か続く言葉は、と期待して待つけれど、クロは黙ったままキッチンの入り口で突っ立っている。
「クロ、取り合えず荷物置いてきなよ」
声をかけると今気付いた様にハッとして、肩にかかるバッグを見る。
「…おう」
肩からストラップを外すとき、バッグのファスナーが開いていたのだろう、中身がこぼれた。
がた、とフローリングに重い音が響いた。
「げ」
何が落ちたか見ようと身を乗り出すと、ジーノがくれた例の香水だった。
俺は割れてないかと思い箱の中身を確認しようと持ち上げる。
クロはまた不機嫌そうに顔を顰めて俺の手にある香水を見る。
「どうせ使わないんだから捨てちまおうぜ」
それも勿体ない気がする。
箱を開けて、瓶を確認するけど特に割れたりしたところはない。
「せっかくだから使おうよ」
俺は面白半分、香水を開けた。
「まじかよ」
嫌そうに身を引くクロを尻目に、香水をひと吹き自分の手首にかける。
鼻に近づけ匂うと、さわやかで甘い香りがした。
香水の成分のことは詳しく知らないので分からないが、すこし柑橘類の香りも感じる。
「結構いい香りだよ」
「そーかよ。言っとくけど俺は使わね…」
先手を打とうとしたクロの左手首をつかむ。
「っ、おい何して」
抗議しようとするのは無視する。
ぐっと力を込められた腕を更に引き寄せて、まだ乾かない自分の手首をクロの首筋へ当てた。
少しスライドさせて香りを移す。
「ばっ、付けんな!」
首筋に感じた冷たさが香水だと気付いたクロが必死に自分の手で首をなぞる。
そんな事をしても香りは消えるどころか広がるのに。
「そんなに嫌がるほど変な香りじゃないけどな」
匂ってみろと促すと、クロは暫く黙り、すん、と息を吸った。
「…女くさい」
「まあ女物だしな」
真顔で答えると地雷を踏んだらしい。
「〜〜〜だから、俺らが付ける意味ねえだろ!?」
あーっと喚くクロ。
ぶんぶんと頭を左右に振るクロからは、甘い匂いが漂ってくる。

ふと、ジーノが言った言葉は嘘じゃないなとぼんやり思った。
(香りひとつでこんなに抑制効かなくなるもんなのか)
自分に呆れる。
クロは未だに香水の匂いを気にして手で取ろうとしている。

「クロ、待って」
「あ?」

ぽかんと口を開けて動きを止めたクロをまた引き寄せ、抱き込んだ。
「ッッば、何して」
「香りとれる前に、もっと嗅がせて」
耳に声を吹き込み、ぐうっと首筋に鼻を近づけた。
「ッ」
息を飲むクロの気配。
腕と体から体温が上がったのが分かった。
気を良くして首筋に鼻を付けて大きく吸い込む。
少しの汗と、甘い果実の匂い。
普段のクロからは漂わない香りを感じて何かが感覚として体の中を走る。
まだ味わいたい、もう一度と、息を吸い込んだ時。

「も、いい加減にしろッ」

ぬ、と突き出た右手で俺の顎をぐぐぐと力づくで引き剥がした。
「あ」
自分を見失いそうになっていたと気付いて、ぱっと拘束を解く。
「ごめん」
謝ると真っ赤になったクロが俺をにらんでいた。

「ぜっってえ捨てるからな!!!!」

俺の手のうちにあった香水はクロに奪われ、
床に転がったChloeと書かれた瓶が、叫んだクロの足にかつんと当たった。
フローリングの床を滑り、冷蔵庫の扉に衝突して止まる。
そして夕飯を作らなければと思い出した。

「あ、夕飯」
「やっぱりお前今からでも洋食フルコース作れ」
「え!?材料…」
「上等だ、いくらでも待っててやるから買ってこい」
「えええ」
「ええじゃねえ!」

クロが本気そうに睨んでくる目が怖い。
許してもらおうと謝りながら、視界の端に転がる香水は今後のためにとっておこうと決心した。
少なからずもジーノに感謝だ。


(了)

















書き直したい orz





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