外の冷えた空気を吸い込んだら思っていたよりかなり冷たくて軽く咳込んだ。昼間なのに今日はやけに冷える。
11月の寒さっつーのはこんなに厳しかったか。

「…さっみ」

気づくと声に出していた。
隣を歩くスギが俺の方を見る。いつもと同じに斜め上から寄越す視線。
それが、妙に長い時間こっちに向けられ続けている。
変だとは思った。
何か言いたいことがあるのかと思って待ってやった。
だが、スギは相変わらず何も言わずに俺を見ている。
なんだってんだよ。
ふざけてんじゃねえだろうな。
考えるより聞いた方が早い。

「…何見てんだよスギ」

俺がスギに向き直り聞き、漸く目が合う。
でも向こうは、「ああ」とか曖昧に返事をしただけでまだ俺の顔を見続けている。
どうしたってんだ。

歯に何か付いてんのか?
さっきスギと食ったラーメンのネギとかか?
口に手を充ててみるが何か付いてる感じはねえ。
…何なんだ。

スギは真顔だと矢鱈と迫力がある。
鼻筋が通ってるし、目が細いせいでなんつーか目力あるし、身長デカイし、もしかしてイケメンの部類に入るんじゃねえか…って何言ってんだ俺。
とにかく、その迫力ある真顔で長時間見られるのは割りと緊張する、いくら俺でも。
間が持たねえし、野郎二人が顔を付き合わせて突っ立ってるのもどうかと、ついに視線を外して足元へとやった。

「ふっ」

その途端、斜め上から機嫌の良さげな笑い声が降ってきたのでばっと顔を上げた。

「何笑ってんだ、」

馬鹿にされたと思って文句を言おうと開いた口の上の方、俺の鼻の頭にスギの指が触れた。
笑いながら鼻の頭をちょんとつつかれて、スギの指が暖かいと気づく。

「真っ赤だよ、クロ」
「あ、…あ?」

真っ赤?何が?あ、鼻か。
一瞬何の事かわからなかった。確かに、ずっと冷気に晒されっぱなしだし、まあ赤くなってるだろう。

「うるせ 寒ィんだから仕方ねーだろ」

俺は昔から寒いと鼻の頭が赤くなってた。
普通皆なんねえのか?と思いスギの鼻を見ると、全く赤くはなかった。なんでだ。

「夜道に役立つな」

何故スギの鼻が赤くならないのか疑問に思っていると、突拍子なくそんな事を言ってきた。なんでそんなに楽しそうなんだよこいつ。

「トナカイじゃねえっつの」

なに言い出すんだお前は、と鼻で笑ったら、あの真顔でまたつんと鼻を触られ、いつもより低めの声が降ってきた。

「残念。可愛いのに」
「………」

『可愛いとか野郎に言う言葉じゃねーよ馬鹿』と突っ込むべきところで肝心な声を出せなかった。
何故か代わりに心臓が一回大きくバクッと鳴った。
可愛いとか言われた驚きでだ、多分。
それより他にあるか。

「頬っぺたも赤くなってる」
「!?」

指摘され、思わず頬に手を充てた。顔が熱いと思ったら、なに赤くなってんだ俺。
…自覚したら余計恥ずかしくなってさらに熱が増したような気がした。
もう訳がわかんね。どうした俺。
やけになってスギを睨む。

「…誰のせいだ馬鹿」
「え 俺のせいなのか?」
「そうだろ」
「えー」
「っ、えーじゃねぇ…!」

スギがしらばっくれてるのか、天然なのか分からない反応をしてくる。でも顔はニヤついていた。確信犯かよ。
もう何言っても無駄な気がして、俺は荒げそうになった声をため息にして抑えた。
そのまま歩き出す。

「あ、クロ待てよ」
「知るか。お前なんか凍えちまえ」
スギが後ろから追いかけてくるが気にせずに歩いた。

「ひどい」
「ひどくねえ」「怒るなよ」
「怒ってねえ!」
「怒ってるよ」
「怒ってねえ!寒ぃから帰る!!」

もう追いつきそうなのにスギは一定の距離を保って後ろからついてくる。

「ごめん、クロ」

謝って来たが、声に笑いを含んでいた。
それを聞いたら更に恥ずかしいようなむず痒いような感じになる。また顔に熱が集まってきた。
…とうとうおかしくなっちまったか、俺。

身体は寒さで震えているのに、顔だけ暑くて死にそうだった。



(了)






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この杉江、片想いです。
鈍感黒田に色々と仕掛けてきっかけ作り。杉江が若干危ない人みたいですね´`
黒田視点…なにこの乙女w





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