「二人に一箱贈呈してます。拒否権はありません。」

ロッカールームからの帰り、廊下の向こうからレジ袋を下げて歩いてくる有里さんが見えた。目があった瞬間、向こうから早足で近づいてきて、抑揚のない声でそう言われた。

「ど、どうしたんですか」
「いいように遣われてるんです。我がチームの監督の訳の分からないわがままのせいで」

明らかにイライラした口調で手に提げていたレジ袋の中から手渡されたのは、定番の赤いパッケージの菓子だ。

「ポッキー…。」

子供の頃はまだしも、最近は食べないなあと手渡されたパッケージに載る写真を見て思った。

「杉江さん、今日ポッキーの日って知ってました?」

「あ…今日は1が並ぶ日か」

11月11日。
この日がポッキーの日などとテレビが言い出したのは、本当にごく最近で、つまるところはお菓子メーカーの戦略なのだろう。俺なら意識してポッキーを食べようなんて考えない。

黙る俺の考えを察したのだろう。聡明なETU広報は、華奢な指をぴっと突き立て、うんうんと力強く頷いている。

「ポッキーの日だからポッキー食べようなんて…こんな無意味なことするなんて信じられない…幼稚園じゃないんだし…。
でも後藤さんは何故かいっつも達海さんに甘いし!このポッキー、選手用に配るのに後藤さんが自腹切って買って来たんですよ!わけわかんない!!
なんなのこの職場…!!」

「ゆ、有里さん落ち着いて」

言葉の後半はヒステリックな叫びだった。
言っては何だが、確かにストレスが溜まるだろう…こんな職場だと。

「…達海さん曰く『日々鍛錬に勤しむ諸君に心ばかりのご褒美』だそうですんで、食べて下さい。達海さんはともかく、自腹切った後藤さんが可哀想なんで食べて下さい」

「は、はあ。でも、二人に一箱って…」
出会い頭に彼女が言った一言を思い出して尋ねてみる。

「同じポジションの人と仲良く二人で食べて下さい。出来ればポッキーゲーム形式で」

「ぶっ」

思いもしない食べ方を強要され吹き出した。
ポッキーゲーム…。
二人で一本のポッキーを両端から食べていき途中で食べるのをやめた方が負けだとかいう…あれのことだろうか。
…それを同じポジションの人間としろとおっしゃる我がチームの監督…。

「完全に面白がってますね」
「十分に承知しております」
当然の俺の指摘に、もうあきらめていると言わんばかりに即答された。

「ポッキーゲームしろったって皆しないだろうな。する意味が分からないし」
「…チームメイトのことをより良く知るためだとか言ってましたけど…もう食べ方云々はどうでもいいんで、適当に食べて頂ければそれでいいです」

「はは。わかりました」
「すみません。じゃ、お願いします」

うんざりと項垂れながら、「他の人にも配って来なきゃ…」と立ち去る彼女の背中を見送った。


残された手の中のポッキーを見つめる。
同じポジションの奴と食べろ、か…。

「…まあ一応声掛けてみるか…」

あいつが嫌がるのは明らかだけど。






(すみません続きます…)

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