after-3 (2/2)

「この遊園地も久しぶり。懐かしいなあ」

 2人で並んで遊園地を歩きながら不意にそう呟いた。
 見つめた先の観覧車やジェットコースターは今はライトアップされている。前にここを訪れたのは、ゴーストとして竜士くんと出会った時だ。
ゴースト だった1週間、いろいろあったけれど、ここでの出会いがなければ今とは全くちがう生活になっていたのだと思うと感慨深い。
 わたしが言わんとすることを察したのか、竜士くんは穏やかにそれを肯定してからさらに話を続けた。

「正十字学園はどうや?……言うて、前にも少しはおったけど」
「楽しい!すっごく楽しいよ。今の学園祭だって──っわ!」

 高いヒールにも慣れてきて油断してしまっていたらしい、タイルの隙間に蹴躓いてぐらりとバランスを崩してしまった。
 咄嗟に竜士くんが支えてくれたから転けることはなかったけれど、もう少し気をつけて歩かなければと思い直した。

「えへ……ごめんね、ヒール慣れなくて」

 すると竜士くんは支えてくれた腕をほら、と差し出した。

「転んだら危ないさかい、捕まっときぃ」
「! ……うん!ありがとう」

 わたしはありがたくその腕を借りることにした。シャツ越しに伝わる体温が温かくて、なんだかとても心地がいい。
 竜士くんをすぐそばに感じる安心感に思わず口許を緩ませつつ、先程の続きを話した。

「学園祭もね、A組のプラネタリウム、お客さんがいっぱい来てくれて大盛況だったんだよ!」

 出雲ちゃんは内装が手抜きだとか言っていたけれど、プラネタリウムらしいシンプルさでわたしは結構好きだった。

「あ、そうそう!そういえば、夏休みはどうしてたの?わたし、夏の間はずっと入院してたからみんなの話が聞きたくて」
「せやな……いろいろあったけど、大半は任務で京都行っとったな」
「え!京都!てことは実家に帰ったの?」
「まあ、流れでな」

 竜士くんの実家は京都のお寺なのだと、子猫丸くんや廉造くんから聞いた覚えがある。竜士くんからは家の話をほとんど聞くことがなかったから、なんだか新鮮だ。

「いいなあ、京都。わたしも行ってみたい!行ったことないんだぁ」
「……京都くらい、また行ける」

 ふと立ち止まった竜士くんにつられてわたしも足を止める。見上げるとわたしを射抜く熱の篭った双眸に、心なしか心臓が強く波打った。

「……うん、いっぱいいろんなところに行きたい!竜士くんの生まれ育った街も見たいし、南十字通りもまた行きたい。あとメッフィーランドにもちゃんと遊びに来たいな……行きたいところだらけだ」
「名前」
「竜士くん、一緒に行ってくれる?」

 そう言って絡ませた腕を、きゅっと握りしめた。ドクドクと高鳴る鼓動に熱が上がっていく。
 当たり前や、と小さく呟いた竜士くんは、腕を組んだのと反対側のわたしの肩にそっと手を寄せた。

「なあ……名前」
「うん……」
「いろいろあったし夏も跨いでえらい中途半端になっとったけど、俺……やっぱり名前のことが好きや」
「……!」
「せやから、その……俺と付き合うてくれるか」
「……うん……!うん!」

 眼に膜を張った涙を瞬きで誤魔化して、わたしは目の前の大好きな人にぎゅっと抱き着いた。

「わたしも……わたしも大好きだよ、竜士くん!」

 口にした途端、溢れ出る竜士くんへの好きが止まらない。どうすればこの気持ちが伝わるのかわたしにはわからなくて、とにかく目一杯の力で竜士くんを強く抱きしめた。
 竜士くんも同じようにわたしの背に腕を回して抱き寄せてくれて、ああ、幸せだなあなんて、涙が頬を伝った。
 閑散とした遊園地の端で、遠くから聞こえてくるのは賑やかな音楽と歓声だけだ。

 こんなにも騒がしいわたしの鼓動と竜士くんの鼓動は、きっとお互いにしか聞こえていない。



fin
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