なまえの唇を舐めると血の味がしたのでよく見てみると、口唇の皮が剥がれており、そこからわずかに血が染み出していた。彼女が昔から口を噛む癖がある事は重々承知していたが、さすがにここまでくると痛々しい。もう一度舐めると、閉じている目蓋の中で目玉が二三度動いた。

「…痛いんですけど」
「起きた」
「寝起き悪…。何か用ですか」
「悪戯」
「寝かせろ」

布団の中に潜ってしまうと彼女は中々出てこなくなる。その前に、何としてでも、そのキャミソールを脱がせてしまわなければならない。腰のラインをなぞるようにして服の中へ手を忍ばせるとチックみたいに彼女の皮膚が跳ねた。

「…レッド」
「怒る?」
「怒ってほしいの?」

仰向けになった状態でなまえの細い指が僕の頬を滑り落ちた。母性を含む笑みに、何故か無性に欲情している。しかしその穏やかな表情は唾を飲み込んだ瞬間跡形もなく消えてしまった。キスを拒む赤が滲んだ唇は夜にいただくのが望ましい。








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