昔の名曲が唄うように席替えが運命を決める可能性を思い知った。私の隣の席にうちのクラスで大変人気の浅羽くんが舞い降りたあの日から顔を晒すのが恥ずかしくて申し訳なくてマスクが外せなくなってしまったのだ。彼は惜しみなくうつくしいラインを見せつける。たまに殴りたくなった。

「すみません、教科書見せてもらっていいですか」
「あ、うん。全然」

何で私なんだろうって思った。浅羽くんの向かい側を見やる。ああ、休みなのか。それでか。軽く削れそうなほど凹んでしまった。この人はおそらく私の名前を知らない。クラスメイトのうちの隣の席の人だ。いやもう、十分だ。漫画みたいに授業中に始まるラブロマンスを思ってもかすりもしないままその日は終わった。

「浅羽くん、今度の実験なんだけど」

化学の時間保健室に行っていた彼のために、という名目で自分のために、廊下を歩く後ろ姿を捕まえた。眠そうな瞳がじっと私を見る。こんなに見つめられたのははじめてだ。彼からと言わず、誰からもこんな風に見つめられた事はない。自意識過剰による照れが溢れ出しそうだ。そう思う頃には顔がひたすら熱くなっていた。

「あの、すみません」
「は、はい」
「俺と同じクラスでしたっけ」

心臓が止まった。本当にそんな瞬間を感じた。恥ずかしいやら寂しいやらで手が震えるのを必死で抑えて、早口に授業の事だけ伝えてトイレに逃げた。

この二人にドラマはおそらく生まれてこなさそうだ。そうだ、最初から変な期待というか思い上がり?何だろう。たかが隣の席になっただけで調子に乗っていたのかもしれない。しかしそうは言っても、実に、ああ、あんなにも外見以外無視できる人がいたんだ。できれば恋はしたくなかった。醜く沈む心が涙を誘うせいで生活がうまくまわらない。








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