誰もいない放課後の教室は実に実に楽しい。グラウンドに響く部活生の声を聞きながら一つの机を前と後ろで挟んで、その上でポッキーの袋を開けて、なまえは雑誌とかジャンプ読んで、俺は携帯いじったりぼーっとして。無意味に時間ばっかりが過ぎていく。ナンセンスな感じがとても好き。
「なまえ、ポッキーラス1だよ」 「あーいいよ悠太食べて」 「いいよなまえのなんだから」 「んー…」
彼女の視線はいまだにジャンプの中でしわが寄った眉間に前髪でできた影が落ちている。一応ポッキーは放置して外に目をやった。おお、がんばれ吹奏楽部諸君。
「んー」 「…何でしょうか」 「ほっきーげーふ」
さっきのまま眉間にしわを寄せた状態で桜色の口からポッキーがこちらに向かって伸びてきている。彼女のお気に入りのクッキーの部分はすでに今もぐもぐと砕かれている。正直、正直かわいいね。たまらん。
「もう次からポッキーは持ってこない」
期待していたくせに実際期待通りに物事が進むと顔を真っ赤にして逃げていく。俺が告白した時もそうだった。こういう面倒なのをツンデレーションとかいうのかなあとか何とか考えてそれでもほこほこしながら小さな後ろ姿を追いかける。オレンジと黒の背中は前にコンビニで見たチョコレート菓子に似ていた。商品名はど忘れしたけど売ってる場所はわかってるから明日買ってこよう。手を掴んだらしばらく黙って睨んできた後にこにこ笑いだした。怒られてもキスしたくなるのは病気だ。もう病気だ。
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