このくそ暑い日に首まで毛布をかぶって寝ている人間が私の目の前にいる。頬は汗ばんで紅潮し、黒い目はより輝きを失って色ばかり増し、耳を澄ませば気怠そうに開いた口から微かな息が聞こえる。要するにただの風邪ひきが苦しそうに喘いでいるだけの光景。

「あの要くんが、風邪なんかひいて弱ってやんの」
「うっせ馬鹿」
「夏風邪は馬鹿がひくのよ」

病気の時の塚原はいつにも増して短気だから、嫌味も目を合わせないようにして言わなければならない。気持ち俯いてみても降り注ぐ視線の冷たさにうっかり謝罪の言葉が口を衝いて出そうになる。そんな無礼者のために冷えピタの袋をすこし乱暴に破いた。

「おでこ、出して」
「それくらい自分でやる」
「やらせん」
「意味わかんね、やめ、さわんな」

弱々しい抵抗を抑えておでこに触れるとひどい温度とともに水っぽい感覚がした。塚原が汗をかいている。突然感じる人間味はとても体に毒だと思った。

「ねぇ塚原くん」
「何だよ」
「はやく風邪なおしなよ」

ベッドの淵に頭を寝かせて塚原と同じ目線になる。案外距離が近くて怖気づきそうになったが、口を結んだ彼の仕草がかわいくて、そんな気持ちも飛んでいった。真っ赤な目の淵が優しさに変わったら、たぶん私も手を出す頃だ。








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