ビル風が耳にうるさく鳴り響いている。梅雨の半ばの変に曇った午後の空へ綺麗にコーティングした爪先を向けてみる。私の爪はいつも長細くて女の子らしくてかわいいねと言われてきた。すこし誇り。まだ雨は降りそうにない。深く息を吸うと、背後でドアの開く音がした。

「おお、みょうじか」
「キョンだ」

見慣れた声と疲れた笑顔が写った。彼にはもう建前もいらない気がしてきている。私の事をわりと何でも知っている。肝心な事も肝心ではない事もひっくるめて知る彼はその小さな二つの目を、あえて私の手を取り塞ぐのだ。湿った風が私の足をくすぐってそそのかす。

「ハルヒは」
「さあ、今日は見てないな」
「寂しがるよ。探さなきゃ」
「たまにはそういうのも必要だろ」

キョンはようやく私の隣へ着くと灰白色の空に目を向けた。梅雨が明けたら小麦色の肌がきっとこれからもっと濃くなる。私の肌はここで進化を終えると死細胞となって枯れてしまうかもしれない。キョンの頬に手の甲をつけても彼はノーリアクションだった。慣れているのだと思った。

「キョンはよくない人ね」
「ああ、かもな」
「そうだ。私の手、綺麗?」

左右の手を並べて彼に見せると、彼は意外と真剣な眼差しでその10本を見つめていた。

「綺麗だよ」

指先をやわらかく握られたら心臓まで萎縮するような心地がした。ここで彼の唇を奪う事は、果たして。雨よりはやく雷が鳴り出した。と思ったら彼のお腹の音だった。期待した私は馬鹿だ馬鹿だ。








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