潰れた。私のお気に入りのカレー屋さん。スパイスがよく効いていたあの、喉が渇くような辛味が大好きだった。テナント募集の貼り紙の向こうにはすこし崩れたカウンターと、テーブルクロスも何もない無愛想な茶色のテーブルが幾つか見える。私のお気に入りの席も見えた。

「ごめんレッド。潰れてた」
「…仕方ないよ」
「どっかよそで、あ、おいしいラーメンのお店知ってるからそっち行こう」

レッドは無言で頷く。帽子を今一度深く被り直す彼をはじめて見たような気がした。携帯のマップを見ながら歩く速度を彼に合わせてゆっくりと流れるように歩く。午後の日差しがやわらかく注いだ。

「どうしてなまえは、僕を見ないんだろう」

冷ややかな侮蔑を表す声に背筋が凍った。スカートの裾も同じように揺れた。隣を見ても彼は私の事など眼中にもないようだ。寂しい、と指先が震えても、相対性理論を掲げて知識をひけらかしても、誰よりも深い赤色に近づく事はできるはずもなかった。指を折って数えられるような距離ではない事も熟知しているから、次のラーメン屋も恐らく潰れている。








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -