小説 | ナノ

オーダーメイド


未来と過去、どちらかひとつを
見れるようにしてあげる
どっちがいい?


私は昔昔、生まれる前。
そんなことを聞かれた気がする。
誰に聞かれたのかは覚えてない。
でも、どこかで会った顔だった。

…神様?いやいやそんなまさか。
…目の前にいるぱっつん後輩にも似てる。



「ぱっつん後輩って言わないでください」

「あらぁー。怒っちゃったぁー??」

「(…うざ)」


私はよしよしと木ノ瀬くんの頭をなでた。
触れた時に脳裏に映るのはこの子視点の、過去。
ある意味での星詠み。なんでこんな能力。
誰かが傷ついてても、どこかの俺様生徒会長のように
未来を変えることが出来ない。
ただただ、視えるだけ虚しい。


「…先輩?どうかしました?」


私が無言になったのが不思議に感じたのか、
木ノ瀬くんは不安そうに尋ねてくれた。


「なんでもないよー」

私はいままでの考えをかき消し、笑顔を作った。
うまく笑えてるかわからない。
いや、笑う。笑ってやる。笑顔作ってやる。
青空くんよりは歪かもしれないがなんとか!なる!

私は木ノ瀬くんに微笑むと、ぱっと手を離した。


「…?」


木ノ瀬くんの顔には未だに疑問が浮かんでいる。
…めんどくさいことになりそう。
避けるため、私はそれじゃーね!と言って去ろうとした。
が、彼が許さなかった。


「先輩。僕に話して下さい。
なんでそんなに悲しそうな笑顔なんですか」


「…は?悲しそう…?いやいや。まさか。
私楽しいよー!嬉しいよー!君と話せて最高な気分だよ!」


「見えすいた嘘ついてないで。ほら。」


木ノ瀬くんは嘘だと言ってくれた。
仕方なく、場所を変えて、私は自分の能力のことを話した。


「…だから悲しがってたんですか」

ちなみに私が見た木ノ瀬くんの過去とは
彼のスランプ。辛い、悲しい、もどかしいという感情で
いっぱいの、たくさんの、思い出。


「…私はこの能力が嫌いよ。未来は変えられるのに…
過去は変えられない。」


そう話す私は自嘲気味に微笑んでいた。


「僕は先輩が過去を選んでくれてよかったと思ってます。
未来を変えてしまうような人じゃなくてよかったと、
安心してますよ」


「でも傷つくでしょ?死ななくていい人が
死んでしまったりするのよ?
もし未来がみえてたら…っていつも考るわ…!」


思わず木ノ瀬くんの言葉に否定をした。
それを聞いてる時の木ノ瀬くんは
いつもの強気な瞳を持つ子ではなかった。
とても優しい瞳を持っていた。

「…先輩、先輩はいくつですか?
その小さな身体にどれほど抱えてるんですか
なんであなたが抱えるんですか?
僕はあなたに無理をして欲しくない。
過去が視えるなら僕のを好きなだけ見てください!
先輩と過ごしてる過去を見てください!
悲しいわけがないから!」

それを聞いて、私は思わず笑った。


「……滅茶苦茶、だよ…っ…ふははっ」

「滅茶苦茶でも、僕は構いません。
先輩の悲しそうな笑顔はもう見たくないから…」


そう言って、彼は私を抱きしめてくれた。
私より1年遅く生まれて、身長も小さくて、
可愛い子なのに言葉も行動も男の人で。
…私は、そんな彼の言葉に甘えざるを得ないのだ。

彼の肩に頭を預けて目を閉じる。
脳裏に浮かんでくるのは私と木ノ瀬くんの過去。
出会ったときのこと。
二人は微笑んでいた。笑みが絶えず、とても幸せそう。
彼の言う過去とは、このことか。


「…ありがとう」


私は彼の優しさに甘えることにした。
彼の耳は真っ赤。可愛いなぁ。
そして、ふ、と脳裏をよぎったのは
私が生まれる前の出来事。

…やっぱりこの子だったのか。
触れている人の過去しか見えることはない。
だからこれは彼の過去。昔昔のお話。
私は確信してしまった。

そして彼の耳元でつぶやいた。

本当にありがとうございました。
最後にひとつだけいいですか?
これからもよろしくおねがいします。


と。彼は穏やかに微笑んでいた。





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