張り巡らされた罠 [ 9 ]

聞こえてきた奇声は途絶えたまま、何も聞こえない。
周りを見渡しても、ナツが照らす炎の光が届かない先は闇だ。
聞こえる音は、自分の息遣いと心臓の音だけ。

触れている自分以外の体温が唯一の心の拠り所のように感じて、ルーシィはナツにギュウッと抱きしめるようにくっ付いた。
カタカタと僅かに震える体をそうすることで止めようとしていたのかもしれない。
必死に音の在り処を探すだけで他のことはまったく考えられていなかった。
グレイとエルザに呼ばれて聞かされた、ナツの本心のことも。

その心細いルーシィの体に突然温かい体温が力強くルーシィを包み込む。
一瞬その安心感と心地よさにルーシィは震えを止めて瞳を閉じかけるが、
耳に自分の物でない吐息が触れて一気に我に返ってしまった。


(わわわ!?ナ、ナツ!?どどどどどうしよう!?)

(私から抱きついといて離せっていうのおかしい!?じゃなくてなんでこんなことに!)


ルーシィの心臓が一気に騒ぎ出し始める。
そしてそのまま頭が沸騰しそうなルーシィに追い討ちを掛けるようにさらにギュウッと強く抱き締められる。
耳にナツの唇が触れた。


「…わぁあああああ!!!!」
「……うぉ!??」


ルーシィの奇声でナツが驚く。
拘束されていた腕の力が弱まったのを良いことにルーシィは即座にそこから抜け出し、鍵を構えた。


「いいいいいこと思いついたわ!ひ、ひひひ開け!しょしょしょ処女宮のとと扉!!ばばばバルゴ!」


ルーシィが鍵を振り被った位置にボワンと音を立てて、メイド服の少女が現れた。
しかし、その少女はあきらかにやる気がなさそうに、いつものポーズをダラダラとつくった。


「……お呼びでしょうか、姫。」
「ば、バルゴ!!ちちち、地上まで上がれるトンネルを掘って!!」

「………………。」
「……あれ?バルゴ?」

「姫………本日は、お休みをいただいてよろしいでしょうか。」
「へ?ど、どうしたの?」

「ここで今地上に上がってしまえば、またじれったい毎日に戻ってしまいます。耐えられません。」
「……え?何の話?」

「それから今、おにいちゃんを抑えるのに大変で……一刻も早く戻りたいのですが。」
「はい?おにいちゃんって、えっと、確か、ろ、ロキのこと?」

「その関係で……星霊一同、とても忙しいので本日は休ませていただきます。申し訳ありません。」
「はぁ!??」

「あ。決して獅子宮の鍵は使わないでください。……恐ろしいことになりますよ……。」
「ちょ…………怖いから!やめてよその顔その言い方!?なんなの!?」

「………お仕置きですか?」
「お仕置きはいいから!……ってその顔のまま言うのやめて!怖いから!」

「では、ご武運をお祈りしております。ナツ様。」
「……え??ちょっと!!………本当に帰るの!?バルゴ!?」


ボワンと再び音を響かせ、処女宮の星霊が消える。
意味がわからず、オロオロと鍵を見詰めるルーシィの背後から突然ナツの腕が伸び、
辺りの空気が振動するほど力強い大きな音をたてて、ルーシィの両側に手をつく。
ナツと壁の間に閉じ込められたルーシィは、恐る恐るぎこちない動きでナツの顔を覗くように見上げた。


「ルーシィ。」
「………はい。」

「……目うろちょろさせんな。こっち見ろ。」
「…………………は、はい。」

「だから……目うろちょろさせんな。」
「っ……無理!なんなのよ!」

「家の前で話聞いてたんだろ?オレの気持ちもう知ってるよな?」
「え?…あ、う、うん?」

「なんで疑問系なんだよ……。」
「だって……。」

「冗談だとか、疑ったりしてんのか?」
「………う、うん……だって全然そんな素振りないじゃない!今までもさっきも!!」

「…………わかった。やり直す。」
「う、うん??」

「ほら。来い。」
「……へ??」

「だから。さっきみたいに抱きついて来いよ。ほら。」


ナツは、ルーシィから一歩離れ、両手を腰上あたりに広げて上げ、来い来いと手首を折る動作を繰り返す。
それを赤くなりつつも引き攣った表情で見たルーシィが、いけるわけないでしょ!とナツに突っ込む。
その言葉を受け、ナツは半眼で先ほど拾ったオモチャの頭を捻り、ルーシィに向ける。


≪ギィヤァアアアァアアーーーー!≫
「や、やめなさいよ!うるさい!!モグラに気付かれるでしょ!?」
「さっきは怖がってたのに、なんで怖がらねぇんだよ!」

≪ギィヤァアアアァアアーーーー!≫
「音の正体がわかれば怖くないのよ!」
「さっきは、わかってても怖いって言ってたじゃねぇか!!」

≪ギィヤァアアアァアアーーーー!≫
「そんな目の前に堂々と向けられても怖くないのよ!」
「なんでだよ!!?やり直してぇんだよ!」

「キシャァアアアァアア!!!」

「だからうるさ………きゃぁぁぁあああ!??」
「うぉ!?………あ。こいつ、モグラか?」


暗闇から巨大モグラが、怪物のような威嚇の声を発しながら、のっそりと現れた。
ルーシィは慌てて、ナツを盾にするように背中にまわり、しがみつく。


「……ルーシィ。さっきと違う。後ろじゃなくて前。」
「それどころじゃないでしょ!?ほら!やっつけてよ!」

「………やってほしいならオレの言うこと聞けよ。」
「敵を前にして何言ってんの!?私星霊出せないんだから早くやっつけて!」

「やってほしいなら…」
「だからそれどころじゃないでしょ!わかってるでしょ!ねぇ!」

「……早くしねぇと、それ以上の要求だすぞ。」
「っな……え……?」

「さーーん、にーーぃ」
「わわわ!?わかったわよ!バカ!!!」


ナツの腕を勢いよく引っ張り正面を向かせたルーシィは、その勢いのままナツの首の後ろに腕を絡めて抱きつく。
ルーシィはもうやけくそ状態だった。
頭が沸騰しているかのように顔から湯気が出ているのも意識していられないくらいに。

背伸びをした状態でナツに抱きつくルーシィの腰をナツは片手で持ち上げるように抱きしめる。
肺が圧迫されルーシィの喉から苦しそうに息がもれたが、ナツはもう片方の手にあるトンネル内を照らす炎を
鬱陶しそうに眺めて、それを巨大モグラに投げつけた。これで両手が使える。


「キシャアアア!!」


「な、ナツ!これでいいんでしょ!は、早くやっつけて!」
「ルーシィ…すき。」

「…っ……わ、わわわわわかったからははは早くやっつけてっ!」
「ずっと変わらず傍にいたい。ルーシィといると楽しいし安心するんだ。」

「そ、そそそそう。わ、わ、わかったから」
「ルーシィ、すきだ。」

「っう…………う…うん。わ、わかったから……」
「……わかったから……なんだよ?」

「は、早くやっつけてってさっきから言ってんでしょ!!?」


ルーシィの叫びにナツは不機嫌そうに顔を引き攣らせる。
あっそと呟き、半眼でルーシィを睨んだかと思うと、ナツの首に腕をまわすルーシィの体をさらに締め付け、
ルーシィの両足を片手で持ち上げて抱き上げた。


「……わ!?」

「火竜の……咆哮!!!!」


所謂、お嬢様抱っこでルーシィを持ち上げたナツは、投げつけられた炎の熱さと痛みに悶えていた巨大モグラに
先ほどとは比べ物にならない強烈な一発を食らわす。
ナツの攻撃にモグラが奇声を出したと同時にナツはモグラの横を通り抜けて一目散に走り出した。


「ナツ!??……ちょ、ちょっと……モグラ退治終わってないわよ!どこ行くのよ!」

「うるせぇ!モグラ退治どころじゃねぇ!」

「は!?何言ってんの!?……ちょ……怒ってんの??…あ、足!痛い!力強すぎ!痛いってば!!下ろして!」



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