張り巡らされた罠 [ 4 ]

ルーシィに初めて出会ったときは、飯をおごってくれた"良いやつ"だった。

それから接していくうちに、反応が一々おもしろいし、窮屈しない一緒にいてすごく安心できるやつだとわかった。

それにルーシィの星霊は強い。そして約束を大事にしていて必ず守る。

だから、自分とチームを組んだルーシィは、何も言わず突然いなくなったり、戦いの中で帰ってこなくなることもないと、ナツは安心し、ルーシィを信頼した。
イグニールを失った痛みを補ってくれたフェアリーテイルの仲間は皆、大切で、家族同然で、守るべき存在だと心底思ってはいる。
だが、失う時の痛みを知っているからこそ、ナツは誰かに対してそれ以上の感情を持つことに恐れを抱いてしまっていた。
心を寄せ始めていた誰かを失ったと思っていた時も、失った悲しみとは他に、
まだ淡い気持ちのまま本気になっていなくて、よかった、と心のどこかで安心してしまったのだ。

ナツは、ナツを外に出そうと必死に引っ張り続けるリサーナを見る。


(イグニールを失った時と同じような痛みは、できれば二度と味わいたくない)


だが、ルーシィは違う。
突然いなくなったりしない信頼感からか、今までのように好きになっていく気持ちを抑えることもなく、
誰かを好きになることを我慢していた反動でどっぷりと嵌り、ナツはルーシィに深く落とされてしまった。
失ってから気付いた淡い恋心とは比べ物にならない、本当に人を好きになるということはどんな気持ちになるのかを、ナツはルーシィに教えられた。
そして、初めての感情と、その存在を失う恐れに、ナツは酷く慎重になる。

もし、ルーシィに振られでもしたら、ナツは自分がどうなるか想像できない。

失う痛みは二度と味わいたくない。

今、一緒にいられる関係を崩したくない。


(でも、このままでいいわけじゃ、ない)


何でもないようなフリして他の誰より近くにいても、いつかルーシィが他の誰かを好きになるかもしれない。
戦いの時以上に頭をフル回転させ、慎重に策を練って、誰よりも一番近くにいることができるようになったのに他の誰かに掻っ攫われるなんて耐えられない。


(まだこれからなんだ。今、伝えるわけには……)


ナツはリサーナに気付かれないように歯を食いしばる。


―― せめて警戒されずに、傍にいられるように。 ――

―― ルーシィに、どんどん近づいていけるように。 ――

―― 自分の存在が、ルーシィの中で、大きくなっていくように。 ――




そして、いつか、ルーシィが、自分しか選べられなくなるように。




今までがんばってきた。


それを無駄にはできない。今はまだ伝えるタイミングじゃない。

さっきだって、ルーシィは恋人だと周りが思っている状況に照れるどころか、酷く錯乱しているだけだった。
一緒にいるのが当たり前になって、どんなに近づいても許される関係になっていても、まだルーシィの心を、捕らえることができていない。


(これからまだ、一番近くにいるオレは、男なんだと意識させないといけないのに)


せめてそこまで行かなければ、伝えても撃沈する可能性が高い。今までルーシィの周りに張り巡らせていった、ルーシィを落とす罠が全て無駄になってしまう。

リサーナはナツを引っ張り続ける。力で抵抗することは簡単だが、なんとかして諭さなければ、非難されるだろう。
ナツはなんとかしてリサーナを諭す方法はないかと頭を巡らせるが、一向に良いアイディアが思いつかなかった。


(ダメだ。せっかくここまできたのに。)


ナツは焦る。
リサーナは呼吸を乱しながら扉の前までやっとの思いでナツを引っ張り出し、大きな音をたてて扉を開けると同時に言い放つ。


「ナツ、ほら!ルーシィいるから!さっきの私たちの会話聞いて、事情理解してくれてるから言い易いでしょ!!」

「……………ハイ??……………何してんだお前らぁー!??」


リサーナが開け放った扉の向こう側には、口の中に目一杯に詰め込んだ空気を噴き出さないように両手で押さえながらプルプル震えるグレイ。
腕を組みナツが逃げ出そうとすれば切ると言わんばかりに剣を掲げたままの状態で異様な圧力を発し続けるエルザ。
そして、口は少し開け、目は大きく見開いたまま、固まるルーシィが、いた。


「さあ!ナツ!」

「………な………え??」


リサーナがルーシィを指差して、GOサインを出す。
エルザがナツを睨む。
グレイは震えている。

そして、ルーシィはナツを見れずに目線を泳がせながら、片足を後ろに滑らせ、ジャラリと小石を擦る音を立てた。

ナツはルーシィの様子に唇を噛み、そしてグレイを思い切り睨み付ける。



「…………おい。そこのタレ目…。プルーみてぇに震えやがって、かわいいとか思ってんのか?気色悪ぃし寒ぃし目障りだろが!」
「…んだとコラ?誰のために噴き出しそうなのを堪えてやってると思ってんだ!」

「…知らねぇよ!笑いたきゃ勝手に笑えばいいだろが!」
「ああ!じゃあ笑ってやるよ!!今まで我慢してた分、思う存分にな!」

「…?………今まで?今までってどうゆうことだっ!?」
「おいおい…誰にもばれずに上手くやってると思ってたのか、おめでたい野郎だな!
ルーシィは騙せても長年てめぇと関わってきた俺やエルザ、それにリサーナは騙せねぇんだよ、バーーーカ!!」

「バカって……な、…なんだよそれ!??いつから、てか何を気付いてたんだテメェ!」

「わ!ちょ、ちょっと二人とも喧嘩始めないでよ、それどころじゃないでしょー!?」


リサーナの静止の声を聞かず、ナツがグレイに殴り掛かる、それに応戦するグレイ。
周りに砂埃が立ち上がり、ナツとグレイを隠していく。
いつもの光景だがいつもと同じ心境で見ることができないルーシィは、呆然とその光景を見守っていた。


「いい加減に………しないか!!お前達!!!」


エルザが、力ずくでナツとグレイを剣で殴るように薙ぎ払う。
いつものように喧嘩両成敗を行ったのだが、直ぐに痛みを堪え立ち上がったグレイに対し、ナツはうつ伏せで倒れたままだった。


「…ナツ。そうやって逃げるつもりなのか?男なら…!ってこら!!」


ナツの様子にエルザが声を上げたと同時にナツは、即座に立ち上がりその場から脱兎の如く走り出す。
その行動に慌ててリサーナが追いかけ走り出した。


「ちょっとナツー!?コラーー!!待ちなさーい!!」


リサーナが追いかけるのを黙って見送ったエルザとグレイは、
呆然と走り去るナツを見守るルーシィに、気付かれないように目配せをして、頷いた。



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