暴走するジェミニ [ 7 ]
嗅覚が優れ探し当てるのが早いとはいえ、双児宮の星霊より早くルーシィの元へ行くのは不可能だ。
だが、それでも逸る気持ちと気持ち悪くなるほどの焦燥で、止まれない。
(……ジェミニがしゃべっちまう前に……!)
(………何を?………)
(わかんねぇ!!わかんねぇけど!!!)
焦りからか息を吸うことを忘れ、むせ返る。しかし速度を変えることはできず全速力で走り続ける。
ナツは、ルーシィにキスをしに行くという、当初の目的を忘れかけていた。
双児宮の星霊は、ルーシィの元に行くために一度戻ってきた星霊界で、変身が解けた。
時間切れだった。だが、ここで自分の魔力を元に戻せるし、ナツのストックだって残っている。
(こっそりルーシィの部屋でナツに変身して、それから……)
「待っていたよ。ジェミニ。」
「「ぇ…………ァ……レ?……レオ!?」」
「ここを通るのがルーシィの所に行く一番の近道だからね。いつか戻ると思っていたんだ。」
「「待ち伏せ!?せこいよレオ!じゃあさっきはわざと!?」」
「…まさか。ジェミニがここに戻るために何か仕掛けてくるとは思ったけど。あぁ、さっきはナツと一緒に手加減なしで、ありがとうジェミニ。」
「…ぁ…あれは!ナツの行動だよ!」 「ボク達の意思じゃないよー!」
「…へぇ…?ナツの姿でルーシィにキスしに行くのもそうなのかな?」
「そ、それはー」 「……それはーー…」
「遊びすぎだよジェミニ。」
「だ!だってーー!」 「だってーだってー!」
「…ふふ、言い訳は聞きたくないなぁ……。」
「「(…目が…怖い!!)……ピーリ!ピーリ!」」
「……この事態、どうやって収拾させるつもり……?」
「「……ピ……ピーリ!ピーリ!」」
「…ピリピリしてんのはこっちだジェミニ。ピリピリ言ってないで考えるんだ!!」
「「…ピピ…ピ…ピーリ!…ピーリ!」」
「………そうやって逃げるつもりならこっちだって考えがあるんだ。」
「「…………ピ……………」」
「……忘却の魔法って知ってるかい?……マスターマカロフなら知ってるだろうね。」
「「……………ピ…………………ピ!??」」
「ジェミニがマスターの考えを読んで忘却の魔法をナツにかけるんだ。
ジェミニが明かしてしまったルーシィの気持ちを忘れたら、ナツはキスしに行くことはない。」
「何言ってるのレオ!??」 「使用禁止されてる魔法だよー!??」
「……止むを得ないだろう……?」
「……め、目が怖いよ!!さすがにマスターマカロフに気付かれずに変身するのは無理だよー!」
「ばれたら、レオの身が危ないよ!フェアリーテイル破門されちゃうよー!」
「「そ、それに早く行かないと先にナツがルーシィの所についちゃうよーーー!!!!」」
今日は変な一日だった。ルーシィは服のボタンに手をかけながら思う。
(ロキは、急に来て急にどっか行くし。)
(グレイも急に来て、俺もチームになれてよかったとかなんとかって…なんか変だったなー。)
(……次行く仕事決めたかったのに…ナツはどこにもいないし……。)
「………はぁ。」
「ルーシィ、オイラも一緒にお風呂入っていい?」
「ハッピー、ナツを探しにいかなくていいの?」
「ウン。ナツはここにいたら来ると思うし。」
「それはそれで困るんだけど!?ハッピーまでほったらかしにして何してんのかしらアイツ。」
「まぁオイラはずっとシャルルの所にいれたからいいけどね。」
「ふーーーん。シャルルねぇ。…ね、進展とかあったの??」
「……ルーシィって自分のこと棚に上げてよく人のこと聞けるよね。」
「……どうゆう意味よそれ。」
…………ドッ…ガッ!!…ガタッーーン!!!
「ルーーーシィーーー!無事かーーーー!!!!」
「……きゃあぁぁああ!????」
「あ!ナツー!!」
重い衝撃音が聞こえたかと思うと、あろうことか窓が窓枠からきれいに外れ、勢いよくベッドへ倒れこんだ。
ベッドのクッションのおかげで奇跡的にガラスが割れていない。
「ルーシィ!!先にオレが来なかったか!??」
「は!?言ってる意味わかんないしこの窓どうしてくれんのよ!!?」
「………来てないのか!???」
ナツは、ゼェゼェと息を吐き、窓を蹴り飛ばした体勢のままで止まっていたが、もう一人の自分がいないことを確認すると慌てて部屋へ入る。
そこでルーシィは初めて自分が服を脱ぎかけていた状態だったのを思い出し、慌ててボタンを留めなおした。
「ナツー、どうしたの?何かあったの?」
「あんた、不法侵入の上に器物破損までして、そんなに訴えられたいわけ??」
ナツは、ルーシィの前まで来た所で、ルーシィとハッピーの疑問には答えず呼吸を整えた。
そして、切羽詰った表情を見せ、ルーシィの肩に腕を置こうと両腕を上げた。
…ガッ!!…ガタッーーン!!!
「……ルーシィ!!そいつはジェミニだ!!!離れろ!!!」
「きゃあああああ!???」
「えーー!!?…ナツーー!!??」
窓枠に残っていたもう片方の窓が蹴り飛ばされ、ベッドへ倒れこむ。
息を切らし慌てた様子のナツがもう一人現れた。
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