俺がいるだろ!
最近、海賊共が不穏な動きをしていて楽しい……いや、忙しい日々が続いていた。そんな時、名前がひとりで地球に降りると言い出した。理由は阿伏兎の誕生日に何かプレゼントをしたいから、だった。
日頃世話になっているからだと優しい名前らしい理由だけど、阿伏兎の世話焼きは性分なんだから気にしなくていいのに。地球は他の星に比べて安全だ。ひとりで降りても問題ないだろう。名前以外ならね。
だが、名前はダメだ。地球には、気に入らない野郎共が多すぎる。まず、銀色のお侍さんだ。ヤツは死んだ魚のような目をしているが、何故か人を引きつける力がある。名前や神楽もお気に入りのようだし、おまけにハゲとも親しい。俺の女だと知ってるから、多分手出しはしないだろうけどあなどれない。
次は、沖田っていうお巡りさんだ。こいつは、要注意人物だ。年が一緒って事もあり、名前に馴れ馴れしい態度をとってくる。おまけに俺の事を恐れる様子など微塵もなく、ガンガン攻めてくるし。ただでさえ気に入らないのに、名前いわく沖田と俺は似ている所があるらしい。
とりあえず、全殺しさせてくれないかな?
こんな要注意人物がいる星に、愛しいお姫様をひとりで出向かせるわけにはいかない。
お姫様には、騎士(ナイト)が必要だからね。
だから俺の仕事が落ち着くまで降りないように、名前には約束させていた。そして遂に明日、休暇というか時間が空きそうだった。
「明日、時間がとれそうだよ。約束していた地球へ行こうか」
『本当?嬉しい』
花のような笑顔を見せる名前。色々あって恋人らしい事はあまり出来なかったから、二人っきりの時間を過ごせるのは俺も嬉しい。
名前の笑顔は大好きだから見られるのは嬉しいけど、お侍さんの為だと思うと複雑。名前は俺だけのものだから。
「名前ってほんと、思っている事が顔に出る」
『えっ、そう?』
手のひらで、頬をパチパチと叩きながら答える。
「明日が、待ち遠しくてたまらないって顔してる」
『うん。だって、阿伏兎さんのプレゼントが買えるんだもの。気苦労ばかりかけているから、何をプレゼントしようかと考えるだけでも楽しいし――』
「俺と出かけるのも楽しみだし?」
声を遮るようにして、言葉を挟む。がどんな答えを返してくれるのか、知りたいからだ。つまり、俺の悪いクセ
が出たって事。からかいクセだ。
だが名前とて、いい加減慣れている。神威が愉快そうに口の端を上げた表情を見せる時は、絶対からかっている。とはいえ、一緒に出掛けるのを楽しみにしているのも事実。素直に『嬉しい』と言えばいいのだけれど、胸の中をすっかり見透かされたように言われるのは、しゃくだった。
『ひとりで行くよりは、楽しいかなって』
「ふーん。それって、俺じゃなくてもいいって事?」
ぼそぼそと呟く名前の顔を、覗き込むようにして尋ねる。背中を押されれば、キスが出来るくらいの距離だ。近すぎるせいか、名前の頬が桜色に染まる。
「なーんだ。名前との久しぶりのデート凄く楽しみにしてたのに、名前は俺じゃなくても良かったんだ?ふーん」
『そんなわけっ……』
「じゃあ、俺と行きたかった?」
俺は楽しそうに微笑む。意地っ張りな名前も大好きだけど、キミは素直な方が似合ってるよ。
次の瞬間、ちゅっと軽く口付けた。
「俺と行きたい?俺がいい?俺じゃなきゃダメ?ちゃんと応えてくれたら、ご褒美をあげるよ」
さっきまでと違い、ふんだんに色香を纏った声色で囁く。
『神威がいい。神威じゃなきゃ……だめ』
「よく出来ました!ご褒美をあげる」
柔らかく微笑みながら、再びの唇を静かに塞いだ。
『ん……っ』
名前のそれは温かで、優しい。啄むようなキスを何度か重ねると、次第に名前の身体が力が抜けていく。彼女の身体を、そっと抱き締めた。
俺は夢中になって、キスを続けた。舌を絡め、甘噛みすると、吐息とも喘ぎともつかない甘い声が零れ落ちる。
「『ん…んん……っ』
ヤバいな。身体の奥がじんわりと熱を持ち始めた。怖いほどドキドキする。このままだと止まらなくなる。
名前もきっとそうだ。見ているだけで恥ずかしくなりそうな、可愛らしい表情(かお)をしている。
『ん……っ』
名残惜しいが、触れた時同様優しく唇を離した。
「続きは後でしてあげる」
にっこりと笑う。久しぶりの休暇だ。名前と二人っきりで、甘い時間を過ごそう。