「消えるんじゃない。帰るんだ。約束の場所に」
そう言って、ジタンは座っていた木の枝に器用に尻尾を巻きつけ飛び上がった。しかし次の瞬間、
「約束の地へ……」
聞き覚えのある声が、文字通り風を切り裂き降ってきた。完全なる不意打ちを食らったジタンは、無防備に地面に叩きつけられる。
「オレには……帰る場所があるのに……」
苦しげに呻いたジタンが顔を上げると、そこに立っていたのはやはり、銀髪の英雄だった。それを認めたジタンは、体の痛みも忘れて勢いよく立ち上がった。
「……じゃねェよ!!なんでお前がここにいるんだよ!」
無言でジタンを見下ろす彼は、クラウドに倒されこの世界から消えたはずの人間だった。しかし彼はジタンの渾身のツッコミにも動じることなく静かに答えた。
「貴様の言葉が気になっただけだ。……約束の地へ行くのはこの私だ。しかし、邪魔をしたようだな」
悪びれる様子もなく、踵を返し歩き出した彼に、横から突然何かが飛びついた。
「セフィロス!探したんだよ!まったく、何してたのさ!……おや、ジタンじゃないか」
クジャだった。ジタンの頭は更に混乱する。セフィロスはともかくこのクジャは、ジタンがこの手で倒したはずだった。しかしクジャは何事もなかったかのように、満身創痍のジタンを見て不思議そうに首を傾げた。
「君、そんなボロボロで何やってるんだい?……まぁ、その様子じゃ僕との勝負はお預けだね。また今度、相手してあげるよ」
驚いたことに彼はまだジタンと戦うつもりらしい。決着はついたと思っていたジタンは返す言葉もなかった。そんなジタンにクジャはひらひらと手を振り、歩き出したセフィロスに駆け寄ると、連れ立ってどこかへ行ってしまった。セフィロース!なんて歌いながら。
「……何だったんだ?」
夢でも見ているような気分だった。側の木に寄りかかり腰を下ろしてジタンは考える。どういうことだ?
彼ら――カオスに呼び出された者たちは消え、そしてコスモスに呼び出された自分たちもまた、元の世界に還るはずだった。しかしジタンの思考は唐突に停止させられる。
「ジタン!何かあったんスか!?」
「いや、大丈……ってティーダ!?」
反射的に答えかけたが、顔を上げるまでもない。この声と口調はティーダだ。……さっき消えたはずの。
「なんで……」
「言っただろ?……オレはここにいるから」
答えになっているようないないような答えだったが、ティーダは胸を張ってそう言った。
腑に落ちないまま、ティーダからフリオニールのとっておきだというポーションを受け取ると、他の仲間達も集まってきた。身体は回復したものの依然頭を抱えるジタンとは対照的に、彼らの雰囲気は和やかだった。スコールが静かに言った。
「また、ともに任務を果たすのもいいかもな」
「興味ないね」
クラウドはバスターソードを担ぎ直してそっぽを向いたが、彼の本心は誰もがわかっていた。ティナが二人の間にそっと進み出る。
「私、これからもがんばれるよ」
もうがんばらなくてよかったはずでは、と思ったジタンだったが、とても言い出せる雰囲気ではなかった。バッツがそんな三人を見て微笑み、納得したように頷いた。
「楽しいときって、なんであっという間なんだろうなって思ってたけど、また楽しいときが始まるためだったんだな!」
その言葉に誰もが笑顔で頷いたが、ジタンは素直に納得できなかった。セシルは言った。
「繋いでみせる。みんなにもらった強さを」
それを聞いたオニオンナイトが、ずっと言いそびれていた、と全員を見回した。
「――みんな!ありがとう!」
少年の素直な言葉に、やっとジタンにも笑みが戻った。しかし問題は解決していない。フリオニールは、最後みたいなこと言うなよ、とオニオンナイトの肩を叩くと彼に笑いかけ、そして顔を上げた。
「終わらないさ。新しい夢が始まるんだ」
希望に満ちたフリオニールの様子を見てジタンも、そうかもしれないと思い始めた。理由や根拠はわからなかったが、この状況ではそう考えるしかなかった。
ジタンから見て一番後ろで、穏やかにみんなを見守っていたウォーリアオブライトが、すっとマントを翻して振り返り歩き始めた。
「光は、我らとともにある」
その後を追って、仲間達は歩き出す。ジタンもティーダの手を借り立ち上がった。
彼らの進む先には、眩しいほどの光――。
終焉が終わらない
光に目を凝らし捉えた人影は、穏やかな笑みを湛えるコスモスと……彼女にそっと寄り添うカオスだった。カオスは重々しく語り始めた。
「夢を……見たのだ」
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