満開を少し過ぎた桜並木は、春風に舞う花びらで辺り一面桜色だった。
「わぁ……!」
思わず感嘆の声が漏れる。自然と足を止めたわたしの隣に立つジタンも、すごいな、と花の雨を降らす桜を見上げていた。
絵に描いたような春の午後のデート。ジタンが桜を見に行こう、と誘ってくれてからずっと、わたしはこの日を楽しみにしてきた。
「こんな桜吹雪、わたし初めてだよ」
ひらひら、ひらひら。降りしきる雪のように落ちてくる桜色を、わたしは目で追いかける。風の気まぐれでくるくる変わる景色を、わたしは飽きることなく見つめていた。
綺麗に咲いた桜だとか、舞い散る花びらの不規則な動きだとか、隣に立つジタンの存在なんかが、訳もなくわたしの心をふわふわさせた。
「チェリカ」
ジタンの柔らかい声に彼を見上げると、優しい翠の瞳がこちらを見ていた。少し照れくさくなって目をそらすと、ジタンはそっとわたしの手を取った。優しく握られた手をわたしが握り返すと、ジタンはゆっくり歩き始めた。温かいジタンの手に、自然と笑顔になる。視界を埋める桜色にも、ジタンの金髪は霞むことなく風になびいて、わたしの心をさらに浮つかせた。その気持ちを少しでも伝えたくて、ジタンの肩に頭を寄せた。
「どうしたんだ?」
ジタンが首を傾げてこちらを向いた。さらりと髪を揺らして微笑む彼に浮つく心のままに笑みを返す。
「来てよかった」
「……オレも、」
不意に視線を逸らしたジタンが、なんていうか……と頭をかいた。
「チェリカが楽しそうでよかった」
そう言った彼は、けどその笑顔は反則だ、つぶやいてすぐにまた歩き出した。ちらりと表情を盗み見れば、紅が差していて。あ、照れてる、なんて思うとまたわたしは、人知れず笑みがこぼれるのだった。
さくら、ひらひら
また来年も、来ようね。
←
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -