神社のお手伝いもなんとか終わると、辺りはもう暗くなりかけていた。帰りが遅くなるのは分かっていたから、今日はジタンの家に泊めてもらうことになっている。
ジタンの家のチャイムを鳴らすと、ジタンのお兄さんが出迎えてくれた。
ジタンはお兄さんと二人暮らしだ。お兄さんはジタンがバイトをしている劇団の一員で、とっても美人さんだ。何度も会ってはいるけれど、わたしは未だにちょっと緊張する。
「こんな遅くまで神社にいたのかい?お疲れ様だねぇ」
「あ、はい。元日は参拝される方が多くて」
「そうだろうね。あぁ、ジタンなら今お風呂だよ。そろそろ上がるんじゃないかな」
お兄さんとお話ししながら部屋に入ると、パジャマ姿のジタンが牛乳を飲んでいた。髪を下ろしている姿が新鮮で、ちょっとどきっとした。
「ジタン、お邪魔してます」
「チェリカ!会いたかったぜ〜」
すぐさまグラスをテーブルに置いたジタンが飛びついてきた。バランスを崩しかけたけれどなんとか持ち直し、荷物を床に置いて抱きしめ返す。お風呂上がりのジタンの体はあったかかった。隣でお兄さんのため息が聞こえた。
「ジタン、僕はもう部屋に行ってるから。チェリカちゃんはゆっくりしていきなよ。じゃあおやすみ」
「あ、えと、はい、おやすみなさい!」
「おー、おやすみー」
慌てて返事を返したけれど、ちょっと恥ずかしいとこ見られちゃったかも。ため息をつきつつも、とりあえずジタンを引き剥がす。
「お兄さん、呆れちゃったかなぁ……」
「気にすんなよ。あいつ、チェリカのことは気に入ってるみたいだから大丈夫さ」
ジタンはぽんとわたしの頭を撫でて、足元に置いていた荷物を持ち上げた。
「夕飯はもう済ませたんだよな。とりあえず風呂入ってこいよ」
「うん、ありがと」
チェリカを風呂場まで案内してから、オレは部屋に戻った。押し入れから布団を引っ張り出してベッドの横に敷く。最終チェックと部屋を一通り見回し、一息ついてベッドに腰掛けた。
明日はバイトも無いし、チェリカとゆっくり過ごせる。彼女も今日は疲れただろうからしっかり休ませてやりたい。それから、残り少ない冬休みをどう過ごすか……。
オレを呼ぶチェリカの声に目が覚めた。どうやらオレは眠ってしまっていたらしい。部屋の灯りも消されていた。
「勝手に部屋入っちゃってごめんねー。」
「ん、いや、大丈夫」
「ほら、ちゃんとベッド入って」
疲れていたせいか、とにかく眠い。言われるがままに布団をかぶると、チェリカも布団に入ってきた。
「ちょっと狭いけど、いいよね?」
「……あ、オレそっちの布団に寝るからベッド使っていいぜ」
そう言って、起き上がろうとすると、チェリカが肩に手を置いた。
「一人じゃ、寒いでしょ。ジタン寝てたからあったかいし」
「いや、でも……」
チェリカはオレを湯たんぽ代わりにするつもりらしい。普段はオレの言葉にすぐ赤くなるくせに、こういうところは鈍感だ。チェリカは起き上がりかけたままのオレに合わせて少し体を起こした。
「ね、お願い」
「…………」
断れる訳がなかった。オレは惚れた弱みだと潔く諦め布団にもどった。背中を向けて何も考えないようにすればたぶんなんとか眠れるだろう。
「うん、ジタンありがと」
おやすみ、そう言ってチェリカはオレの頬にそっと口づけた。……初めての彼女からのキスだった。
心拍数が跳ね上がり、眠気も吹き飛んだオレは、完全に思考が止まった。しばらくして我に返り隣を見ると、チェリカは何事もなかったかのように穏やかに眠っていた。オレは眠れそうにない。
あったかい一年の始まり
今年はきっと、彼女に振り回される楽しい一年になる。
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