Live for the night | ナノ








▼ いつもの夜のはずが…1

「だから、なんでまたあんたなのよ。政宗」

「いいじゃないか。君のお目当ての光長なんてこのテーブルにいつくるかわからないんだぜ?
 しかも、金もかかる。俺は人気12番目っていうなんとも中途半端だからそんな心配はいらない」

このホストクラブ”catsle keep”でNo1ホストの光長さんを目当てで通ってるはずなのに、
毎回指名しても出てくるのは、この人気No12という微妙な数字の政宗。

真っ白なスーツに身を包んだ彼は、自身も透き通るように白くてまさしく深窓の美人といった王子様の様な外見だ。

が、しかし私は彼を求めてはいない!

たまたま見た看板で光長さんに一目ぼれ、
金を貢ぐなら彼だと決めてきたはずなのにまだ1度も接客されていない。
初めて来た日も、光長さんが忙しくて中々テーブルに付けないということで、代わりに現れたのがこの政宗。

それ以来、指名していないのに必ず私のテーブルにつく様になってしまったのだった。

「お、やっと来たか」

政宗の後ろから、お酒のボトルや氷、フルーツの盛り合わせを持って私達のテーブルに現れたのは見習いホスト弓月。
濃紺のスーツに黒のサテンのシャツがその妙にどっしりと構えた懐の深さと妖艶さを更に増長していた。
私を挟むように政宗と逆サイドに座り、その人間とは思えない整った顔を近づけてじっと見つめてくる。
見つめる瞳の底には色素が薄くなった部分があり、その名にある月が水面に映る様にミステリアスに揺れていた。

…やっぱり、どう考えてもおかしい。

政宗の元で修業をしていると言うこの男は明らかに見習いと言うほど若くはないし、私や政宗と同じ年齢かむしろ上な気もする。
けれども、ここは所詮は非日常で夢のひと時を楽しむ場所。
だから、追及する気はなかった。

そして、そんな二人がテーブルについて、今日も宴が始まる。

「それでね、その上司がさぁ”お前のせいだ”なんてミスを責めてくるからさぁ…」

「そんな事言う奴は、お茶に唐辛子でもいれてやればいいだろう。相当な驚きが約束されるぜ?」

「何言ってんの!そんな事したらクビになっちゃうよ」

「…政宗、お前、それをこの間後輩にやって、激怒した奴に追いかけ回されてただろ」

弓月があきれた様に笑っている。
そう、これが政宗が麗しい外見をしているのに、No12に甘んじている理由だ。
常に驚きを求めるこの男は、トークの内容も驚きに満ち溢れておりお客さまを驚愕させているらしい。
それが癖になって指名するコアなファンもついているらしいが、
大半はその見た目とのギャップに失望して他のホストを指名する様になるというのだ。

また、弓月から話を聞いたけれど、お客様にも実際に様々な破天荒な接客をしているらしい。
フルーツの盛り合わせにわさびを仕込んで勝手にロシアンルーレットをしたり、
シャンパンのボトルを開ける前に振りまくって、開栓した時に噴出したシャンパンでお客様を酒浸しにしてしまったりと、
実にセンセーショナルな内容だ。

そんなぶっ飛んだ彼に驚きながらも、一方で話をするとなんだか気持ちが軽くなるのも事実で。
こんな風に彼に接客してもらうのも悪くはないと思っていた。

「そういえば、俺は最近、犬を飼い始めたんだ。見てみるか?」

「なにこれ!かわいい〜!」

弓月がケータイで見せてくれた画像は白くてふわふわの小さな子犬の写真だった。
その愛らしい姿に心が温まり、思わず顔が綻んでしまう。

「…俺はお前の方がかわいいと思うぞ?」

すると、彼が耳元に唇を寄せて、滴るような色気たっぷり含んで甘く囁いてきた。
薄いピンクの口元から整然と並んだ歯が覗く。

「!?」

瞬間、ぞくりと背筋を戦慄が駆け上がっていった。
危険信号だ。

「ちょっ…!お手洗いに行ってくる!」

「そうか。どうしたんだ急に?」

「あれ?君、今日はまだそんなに飲んでないのに?」

口々に疑問を並べる二人を振り切り、立ち上がって慌ててトイレへと駆けこむ。

どうしてだろう?

トイレで自分の姿を映しながら、自問自答をする。

ホストクラブに来てるんだから、その甘いセリフもサービスとして気軽に受けとればいいはずなのに…
弓月の言葉には、何だかそれだけで済まないもっと重いものが裏に隠されている気がして恐れを感じた。

その後、政宗に離席してた間に仕込まれていたぶーぶークッションに座ってしまい、大騒ぎになったけれど、
お酒を飲みながら他愛のない話をしたりして、いつもの調子に戻った。


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