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▼ 新人ホスト襲来編2


「お前もお前だ。安易に返事をしようとするな」

「ひぃっ…!」

カッと目を開き私を睨み付ける奴の形相はまるで般若の様。
あまりの恐ろしさに思わず声が出てしまう。

「おや、オーナー。お早いご出勤デスネ」

「おい、その癇に障るしゃべり方を止めろ。エセ外国人が」

「サテ、何の事デスカ?」

「とぼけるな。貴様はうちの店に入るにあたり、前の店から客をたくさん引き連れてきた癖に何を言っている」


しかも、弓月曰く、この片言の日本語はお客さまを喜ばせるだけのものらしい。
白々しい九条のリアクションに呆れた様に溜め息を吐いていた。

そうなのか、九条。
まぁ、そうだろうな。
このルックスに人懐っこい態度とたどたどしい話し方。
どこかの狂ったように驚きを求めるバカと違い、そのギャップにハマる女子は沢山いるはず。人気がない訳がない。

「なんだ、ばれてるのか」

優しい低めの声は変わらないのに、先ほどとは同一人物とは思えない流暢な日本語だった。おまけに、私には甘える様に視線を送っていた瞳は挑発するように弓月を見上げていた。

「退け。早苗はお前など眼中にない」


絶対零度の瞳で命令する弓月

「さぁ、それはどうかはわかりませんよ?ねぇ?早苗?」

クスクスと笑いながら、私の腕を引いて抱き寄せる。ふわりとムスクの香りがして、あっという間にスーツに隠された太く筋肉質な腕の中に収められた。

「!?」

「次こそは九条と遊んでくださいね?」

そう耳許で囁いたかと思うと、九条は私の首筋に軽く歯を立てた。
チリリと走る甘い痛みが彼の印象をより強く刻んだ。

「この野郎…!」

ガシャンと乱暴な音を立てて持っていたものをテーブルに置いた弓月が慌てて私を九条から引き離す。

「早苗様、それではまた…」

怒りですぐにでも胸倉をつかまんばかりの弓月をひらりとかわして、立ち上がった九条は恭しく私に頭を下げて立ち去った。


「いいか、絶対にあの外国人には近づくな」

「…はい」

いつもと違い不機嫌さを全く隠さない弓月は、無表情のままグラスを口に付けている。そのすぐ隣に座らされて肩を抱かれた私はお酌をさせられていた。

「ったく、何故政宗はこういう時に限って指名が入ってるんだ」

そう低く呟いた後にチッと舌打ちをされると、生きた心地がしない。
美しく、普段は穏やかな人間ほど怒りを露わにするとこんなに豹変するものなのかと驚かされる。それだけではなく、これ以上機嫌が悪くならないように、グラスが空きそうになるとすぐにボトルからウイスキーを注ぐ。
ロックで飲んでいるから、グラスに当たる氷の音が妙に大きく響いた。

私…お客さんなのに、なんでこんなに気を使ってるのだろう。

店内ではノリの良い音楽が流れているのに、沈黙と奴の怒りの独り言だけが重く響いていた。

「悪い悪い!遅くなっちまった!」

しばらくして、いつもの能天気な声と共に、申し訳ないと両手を合わせながら、テーブルにやってきた政宗。
全く申し訳なさは伝わってこないけど、そんな事はもはやどうでもよい。
得意の驚きでこの重苦しい雰囲気をぶち壊してくれと、政宗待望論を心の中で唱える。

「って、どうしたんだ君!まだ今日は何もしてないのに、すでに疲れきった顔をしているじゃないか!」

政宗はソファに座るやいなや、来店前より数歳は老け込んだだろうげっそりとした私の様相にびっくりしていた。

「実はな、政宗…」

相変わらず不機嫌なままの弓月が相方へと先ほどの九条事件の説明を始めた。

「全く嫌な驚きだ…最近こういうの多すぎだろ…」

奴から事の顛末を聞いたNo12ホストは膝に両腕を乗せて項垂れる。
そのまま、頭をガシガシと掻きながらたまったもんじゃないと溜め息を吐いていた。
結局、三人に増えたのに、期待も虚しくどんよりとお通夜の様な空気は変わらない。

「そうだ!!」

ところが、しばらくの沈黙の後、何かを思い立ったかの様にガバッといきなり上半身を起こす政宗。

「俺が九条に噛まれた場所を消毒してやろう!」

「お、いい案だな。さすが政宗だ!」

豪快な笑顔を見せてとんでもない発言をする政宗といつの間にか機嫌を直してそれに便乗する弓月。

「「ほら、来い!俺達二人で消毒してやる!」」

満面の笑みで馬鹿を抜かし、ろくでなし二人が揃って両手を広げてきたから、丁重にお断りしたのは言うまでもない。

2018.3.13
天野屋 遥か



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