だけど僕は(後編)1



―さっき家に着きました。
今日は本当にありがとうね!―

ベッドに寝そべり、アイツから届いたメッセージが表示されたケータイの画面をもう一度見つめれば、自然と顔が綻ぶ。

よかった…本当に。

なまえにちゃんと謝罪をする事が出来て。

枷が取れた所で、アイツと会うのは苦痛どころか楽しみになって、おあいて2の代わり以外でも、連絡を取って友達として会う様になった。
この間は、アイツの弟が俺に会いたいと言って三人で遊んだ位だ。

「おあいて君!」

アイツが名前を呼んで笑顔をみせてくれるだけで、俺も嬉しくなる。

そして、俺は自分の心の隅にある感情の存在に気付いてしまった。

それはずっと昔に捨てたはずの気持ちで。
けれども、まるで地中でじっと冬が過ぎ去るのを待つ花の種みたいに、きっと、俺自身でも気づかない心のどこかに残っていたんだろう。
そんなあの頃の気持ちがまた芽吹くのを感じた。

分かってんだよ、今更だって。

だけど俺は、お前に振り向いて欲しいと、そう強く願う様になっていた。



「…お前いい加減にしろよ」

「何が?」

ある日の仕事帰りに居酒屋におあいて2を呼び出し、酒がすすんだ所で本題を切り出す。

「きちんと一人の女と付き合えって」

「…珍しいね。おあいてがそんな風に言うなんて。今まで一回もそんな事言った事なかったのに」
 
俺の言葉に箸を止めた兄貴が笑顔を消して、真意を探る様にじっと瞳の奥をみつめてくる。
確かにこれまで、コイツの女関係なんて興味持った事もなかったし、どうでもよかった。

けれども、今は違う。

「アイツが…なまえが可哀想だろ。大事にしてやれよ」

一気に重苦しくなった空気の中、お構いなく言葉を続ける。

「…そう言う事か」

ふーん、なまえねぇ…

ところが、俺の言う事を真剣に捉える事なく、楽しそうに意味深に笑窪を深めるだけ。
そして、興味深そうにまじまじと俺を見つめてくる。

不快感と失望に包まれた俺は、そのまま席を後にした。


あぁ、おあいて2なんかじゃダメだ。


よっぽど俺の方が……


「なまえ、話がある」

とうとう耐え切れなくなった俺は、真実を伝えるためにアイツのマンションへと向かった。

ただ、助けたかった。
それだけだった。

「おあいて君、どうしたの?急に」

何も知らないなまえはいつもと同じ様子で、来客用のカップでコーヒーを出してくれる。

「お前にどうしても知って欲しい事があって。この画像を見て欲しい…」

携帯の液晶に浮かぶのは、おあいて2が他の女といる現場の写真。
浮気の証拠として持ってきた。

「こんな…」

写真で現実を知ってショックを隠せないなまえ。

「他にも何人もいるんだよ。こーゆー女が。お前だけにしろって言ったんだけどよ、ダメだった。だから…お前に…」

両手で口を押さえてカタカタと震える愛しい女に、それでも残酷な真実を突き付ける。カメラロールで、数人の女とそれぞれ密会している様子の写真を見せた。

「嫌な奴って思われるかもしんねぇけど、知らねぇふりなんて出来なかった。アイツに騙されてるなまえなんて見てらんねぇよ。別れた方がいい」

なまえの心の傷が癒えるまで、そっと寄り添おうと思っていた。
それが、かつての罪滅ぼしになるんじゃないだろうか。

それで、いつかきっと俺を見てくれればいいなという淡い期待を抱いていた。


けれども、なまえの反応は予想と全く違うものだった。

「私はそれでもおあいて2君が好き…」

返ってきたのは、信じられない言葉だった。


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