日傘2



「俺達のプレゼンの出来に今回の仕事はかかってるからな。ベストを尽くすぞ」

「「はい!」」

先輩の一言に私ともう一人の同僚は大きく返事をする。
いつもの無造作ヘアもきちんとセットして、ネクタイもちゃんと締めた先輩は何処からどうみても出来る男。その佇まいだけで、何か凄い事をやってのけそうな雰囲気を醸し出している。
今日は私達が数か月かけて取り組んできた企画について、先輩が以前に働いていた会社でプレゼンを行う。
チームから、代表で私達3人が派遣されていた。
ウチの会社の方が規模は大きいけれど、今回は先方に提携を申込む挑戦者としての立場だ。
それも相まって、いつもよりも更に気合いが入っていた。
先輩に恥をかかせる訳にはいかないから。

「「失礼します」」

案内されて通された会議室に足を踏み入れれば、すでに相手方はずらりと勢ぞろいしていた。

テーブルについているの先方の担当者の方々を…違う、その中のある女性を見て、一瞬だけ先輩が硬直していたのを私は見逃さなかった。

様子がとても気になったけれど、そのままプレゼンは始まってしまう。
今日は私が司会と説明を行っていた。
プレゼン用の資料を次々とプロジェクターでスクリーンに投影させて話をしていく。
無事に全てを説明し終えて、質疑応答を受けており、事前の準備のおかげで、滞りなく答えることが出来ていた。

「他にも何か質問ございますか?」

「すみません、最後に一ついいですか?」

手を挙げたのは、例の女性だった。

「先程の将来展望の点で、もう少し先の利益予想についてはどうなってますか?」

思いもしなかった質問が投げ掛けられた。
答えることが出来ずに固まっていると、それまで席に座っていた先輩がすっと立ち上がった。

「その件についても既に調査しています。数値については…」

一歩前に出て、まるで私を守る様に堂々と説明を始める先輩。

「現段階では、まだここまでしか確認をとっていません。この質問は実際にプロジェクトを進める段階での話になると思っていましたが…この質問をされたという事は御社のお返事を頂いてるという事でよろしいでしょうか?」

挑発的に先輩が締め括る。

「そう思って頂いて結構です。分かりやすい説明をありがとうございました」

その女性も先輩の回答に満足そうに笑みを見せていた。


「おあいて君!久しぶり!」

「いいプレゼンだったよ」!」

プレゼンが終わった後に、先輩の元へ前の会社の人達が駆け寄って来る。
ところが、あの人はそれを遠くから眺めて会議室を後にした。
当の先輩は気にする素振りも見せず、かつての同僚達と談笑していた。


「カンパーイ!お疲れ様でしたー!!」

無事にプレゼンを終えて大きな契約を取ってくる事が出来たので、今日は打ち上げの飲み会があった。
おあいて先輩は皆に囲まれている。

「さすがですよ!リーダー!」

「俺も見習わなきゃ!」

同僚や後輩達に囲まれてお酒を楽しそうに飲んでいる先輩。
ジャケットを脱いで、ネクタイを緩めているその姿はプレゼンの時とは別人みたいにリラックスしていて。

「今回のプレゼンはみょうじがかなり頑張ってくれてたからな!ほら、お前そんな隅っこにいないでこっちに来いよ」

お酒が入って上機嫌な先輩はいつもより数段テンションが高く、私を呼びつける。

「ほら、頑張ったな!」

なんて、その節くれのある長い指の大きな手で頭をくしゃくしゃと撫でられる。
カッターの袖を捲って露わになった腕にはしっかりと筋肉がついていて、妙に男の色気を放っていた。

「ありがとうございます」

「お前の成長ぶりにホントに感動したよ!向こうからの質問にも的確に堂々と答えてたし。」

いつもよりも饒舌な先輩。

それでも、私はあの女の人との関係が気になってしまって楽しめないでいた。
年上の落ち着いた、綺麗な人でスーツの似合ういかにもキャリアウーマンという容貌だった。質問の内容も鋭く、少しその話を聞いただけで仕事の実力も相当なものだろうという事がわかった。

到底、私なんかがおよびもつかない様な人で…

考えただけで、周りのテンションとは反比例する様に気分はどんどん塞ぎ込んでいった。


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