alike

夜も深まり、既に音も失われている頃、まるで無遠慮に部屋のドアが開いた。
セッツァーだ。

「おかえり」

一人で傾けていたグラスを置く。
セッツァーの装飾品は、出て行く前よりもずっと減っているように見えた。
やはりその通りなようで、いつもはその辺の床に適当に投げ捨てられるはずのそれらの音は聞こえなかった。

「シャワー浴びてから寝る」

言い残してセッツァーはシャワールームに消えた。
消えていった影を見つめる。すぐさま水音が聴こえだした。

私は無言でその扉に手を掛け、湯気の溢れるその小さな室内にそのまま入り込んだ。


「なに?」

振り向きもせずセッツァーは言った。
動揺も非難も無い。なにもない。温度の無い声。

「俺、今、相当不機嫌だから関わんないで」

不機嫌な理由を作ったのは自分のくせに、よく言う。

「アンタも俺に慰めてほしいの?」
「慰めてほしいのは君の方なんじゃないの?」

そっと抱き寄せた。
止まることの無いシャワーのせいで衣服のままびしょぬれだが大して気にはならない。
水音に負けないよう、直接彼の耳に吹き込んでやる。

「大方、大負けして代償にこっぴどく抱かれてきたんだろう」

首元に浮く、噛み付かれたような鬱血痕を舐める。身体中、紅い痕だらけだ。
セッツァーが逃れるように身じろぎしてシャワーを止めた。

「ちょっと…」

今日はもう出来ないから勘弁して。
セッツァーはやっと振り向き、疲れたように笑ってみせた。もう隠すことも無く掠れた声は、たぶん明日までには戻らないだろう。

「こんな風にされて、」

君のプライドは本当にわからない。

「ちょっと、やめろ、あ…」

指はいとも容易く飲み込まれた。
ぐるりと掻き回す。肩を震わせ切なげに息を零した。
抵抗する力すら残っていないのか。

「壁、手ついて」

全部出してあげる。

「よけ、なこと…すんな…っ」
「綺麗にするだけだよ。他には何もしない」

それとも、してほしいかい?
囁くと憤りを隠せないような表情で睨んできた。おお、恐い、恐い。

「できねぇって言ってんだろ」
「私とてぼろぼろの君を無理矢理抱きたいとは思わないね」

するとちょっと意外そうな顔をする。セッツァーの顔は、刺すような眼光が緩むとだいぶ幼く見える。

「ほら、手ついて。腰が砕けても知らないよ」

何か言いたげに眉を顰め、それでも面倒になったのか文句を飲み込んだセッツァーはタイルに縋るように寄り掛かった。
少し足を広げさせ、根元まで入れた指を曲げる。

「あ…」

なるべく刺激しないよう注意はしてあげるのだが、いかんせん狭いので意味の無い努力になる。
セッツァーがタイルの隙間に爪を立てる。ああそんなことをしては爪が割れてしまう。

「…ふ、ぅあ、あ、ん…」

「あ、だめ…、そこ、だめだってば…」

「んぁ…、ちがう、もっと奥…、さわって」

挿れて、とほとんど吐息で言ったその口を、閉ざすように口付けた。
至近距離で睫毛が揺れた。

「相変わらず演技上手なことで」

普通ならあっさり騙されて陥落だろうね。

「引っ掛かんなかったか、エセ紳士」

ちっ、と心底つまらなそうに舌打ちすると、彼は挑発的に笑った。
オマエそれでもオトコなの?と。

「しないと言ったのは君だろう」
「気が変わった」

一回だけならシてやってもいいぜ、なんて、実に上から目線だ。
たしなめるように彼のだいすきなところを人差し指で抉ってやると、今度はほんものの嬌声が零れた。好い声。

「手加減は、…っ、して、ほしいけど」
「なら、足りないと泣いてもしてあげないからね」

きゅう、と後ろが締まった。陳腐な台詞だが本当、身体だけは正直な男なのだ。
心配しなくとも一回でちゃんと気持ちよくしてあげる。
だから。

「いい加減、私だけにしておきなよ」


(2010.02.18)
余裕な陛下って萌えるよね。



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