メリットメソッド3

人通りの少ない道を、私達はゆっくり歩いた。
街は、夜の風の匂いしかしない。
セッツァーの腕を離した。彼が逃げることはなかった。

「お前が、俺をそういう目で見てないのは知ってる」

知ってた。言う気だって無かった。一生黙っているつもりだったんだ、本当は。
セッツァーはまるで石畳の数を数えるように足下を見つめて歩いていた。私はそんな彼の、銀髪に隠れては現れる口元を見ていた。

「俺はお前が好きだけど、答えが欲しかったわけじゃない。そんな高望み出来るわけがない」

言うつもりは無かった。だけど言ってしまった。酷く怖くなった。
だから、笑えばいいさ、逃げたんだよ。

「軽蔑されたかもしれないと思って、今までの関係にも戻れるはずもなくて、嫌悪の目で見られたらと思うと、俺はお前に会うのが怖くて、怖くて…」

ああもう、街外れだ。誰もいない。
私はセッツァーを抱き締めた。
息を呑むような音が彼の喉から発せられた。肩は酷く震えていた。

「や、やだ…」

身じろぎして離れようとする彼を、抵抗を押さえつけるかのように掻き抱いた。

「やだ、いやだ…、触るな!その気も無いくせに…!」
「セッツァー」
「うるさい!同情なんかされても困るんだよ!そんなの要らないんだよ!」
「セッツァー、聞いて」
「なんでお前なんだ、どうしてお前なんか好きになっちまったんだ、なんでこんな不毛な願い、なんで…」

セッツァーの抵抗が止まった。震える胸から嗚咽が漏れている。力を緩めて、そっと頭を撫でると、彼の呼気を肩に感じた。

「お前を好きになってもいいことなんかひとつもない、叶わない、不合理だ、そんなのわかってるんだよ、わかってたんだよ、お前は一国の王で、男で、そして大切な友人で、お前が俺を友だと思ってくれていることも、わかってたんだよ。だけど言っちまった、絶対、ぜったい言わないつもりだったのに、だからもういいよ、ごめん、」

好きになって、ごめん。

宵の風にセッツァーの髪が靡いた。
私はその声が失われるのを聴いた。

ああ、さよならだ。


(2010.05.20)
さようならはじめまして。



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