メリットメソッド2

傷男?元気だよ?あれ、色男、最近傷男に会ってないの?
リルムがフィガロを訪れたとき、私はさりげなくセッツァーの消息を聞いてみた。
さすがに気になるほどに音沙汰が無くなり、まさか最悪の事態になっていないだろうかと胃に鉛が落ちた思いでいたのだが、どうやらそうではないらしい。
まだ小さく、だけども聡いリトルレディは私の瞳をじっと見つめて、何かあったんだね、まあオトナの事情に口を出す程リルムは無粋な子じゃないから何にも聞かないよ、なんて有り難いことを言ってくださった。

それから暫く経ってもセッツァーから連絡が来ることは無く、ええいままよ、そう思って事在るごとに仲間達にセッツァーの安否を聞いてみるのだがどうやら彼はご健在らしい。
私の心を掻き乱しておいてまったく失礼にも程がある。
文句のひとつやふたつ、いや五十個くらいは述べてやりたいものだがはて、いざ何を言おうかと思うと全く言葉が出てこない。ああもやもやする。
返事を迫られたら?
困る。私はまだ返す言葉を見つけられていないのだ。
だけど、彼が居ない。
来られても困る。だが、居ないのはおかしい。
言い逃げなんて卑怯だと思わないか?世界最速の逃げ足とでも言いたいのか!
言うべきことなんてわからない。
だけども私は、君に会いたい。



その日、彼を見つけたのは偶然だった。まさに偶然だった。
彼は私が出張だと勿論知る訳はなく、私とて羽の生えた彼が何処に居るかなんて全く分からなかったのだ。
それでも私があの揺れる銀髪を見紛うことなどあるはずがない。
仕事を終え、宿に戻る途中、気まぐれに寄ったバーに彼は居た。後ろ姿でさえわかる。セッツァー。私の、私の唯一無二。
胸が熱くなった。感動なんて生易しいものではない、むしろ憤りに近いような熱情に突き動かされて、私は彼の腕を掴んでいた。
振り向いた彼は、まるで幽霊でも見たかのような顔をした。

「ど、うして…」

声が震えている。掠れている。まるであの日の電話線越しだ。

「どうして、とは随分な言い様じゃないか」

自分の声がやけに冷静なことを、音節の0.2秒後に自覚していく。綱渡りのようにぶれては戻る。
まだ、まだ大丈夫。
彼が身じろぎするように腕を引いたので、私はつい腕を掴む力を強めた。

「君は、」

びくり、と掴んだ腕からあからさまに震えが伝わった。ポーカーフェイスもへったくれも無い。怯えたような顔。ギャンブラーの名折れじゃないのかと言いたくなる程の動揺。

「セッツァー」
「なんだよ、離せよ…」

謝るから、と噛み締めた唇から漏れた言葉を聞いて、私はさっと頭に血が上った気がした。
謝る?何を。今更、今までの騒動は手の込んだジョークでしたとでも言うつもりか?人を散々振り回しておいて!

「…お前が、」

だけれど、言いかけたセッツァーの声が、あまりに、あまりにも震えていて、ほんとうに今にも泣き出しそうで、私の荒ぶる感情は静まるしか術を与えてもらえなかった。彼の腕の細さを、こんな時にありありと感じた。

「…悪ぃ、場所変えさせて」

私は俯いた彼の手を引いて、黙って店を出た。
このまま手を離して何も言わずに別れることがこの可哀想なセッツァーを救う方法だとわかってはいた。
だけど、出来るわけが無い。
手放すには、彼の空気は私に馴染み過ぎたのだ。

つづき


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