乙女心と秋の空2

べたべたな台詞をにやにやの笑みと下心を顔面に貼り付けて言ってのけた彼は何処へ行ってしまったのだろう。ぽつんと夕食のハンバーグを口にしながら考える。さすが美味しい。美味しいのだがいつもより淋しい。何故だろう、シナモンの味がするからだろうか。
すると突然目の前にグラスが現われて中身のウーロン茶をたぷたぷ揺らしたまま静止した。動作の主なぞ考える必要もない。ありがとう、と受け取ると全く予想外な言葉が襲ってきた。

俺ねぇ、告白されちゃった。

目をぱちぱちさせるとその隙間にすかさず経緯が雪崩れ込んでくる。買い物に行ったらさ、ああハンバーグの材料を買いになんだけどね。いつも居る花屋の女はやっぱりいつも通りに居て、あなたの手料理を食べられる人は幸せね、だってお買い物上手はお料理上手なのよ。とても羨ましいわ、更に言うにはきっと家事も出来て気も利くんでしょう、ねぇ、私にも幸せを分けてほしいわ、なんて言うの。なんだなんだと思ったら、いつも買い物にくるあなたをずっと見てました、だって。

もちろん丁重にお断りしましたけどね、とごく無表情で言ってのける。

だって、あの女は、俺がいっつもふたりぶんの食材を買うのを知っていて、この前、花を買った時、もしかして恋人にですか、えぇまあそうです、なんて一連の会話もして、この指輪お似合いですね、なんてお釣を渡しながら言ってた。アンタと歩いてるのを見てどう思ったかは知らないけど、まあさすがにバレてはないだろうけど、でも女の勘を軽んずると痛い目見るわよ、なんて言われて育った(育った、とは少し違うけど)からちょっと疑わざるをえないんだよな、ああ話がずれたけど、と一旦言葉は切られて、女ってわからないよなぁと続く。

でも、アンタの隣りに居られる人物はなんて幸せなんだろう、容姿端麗、背も高いし優しいし、頭も良い、非の打ち所が無い、なんて思ってたね、当時は。まあ今もそう思ってないと言ったら嘘になるんだけどね。そういう気持ちなんかな。あの子の中では恋愛の行方なんてもう関係無くて俺の隣りの「誰かさん」が勝手に捏造されてて俺は幸せにならないといけないみたいで。ああ言い忘れてたけどあの子明日結婚するんだってさ、そういうこと告白した後にしかも相手に言うのって普通?やっぱり女ってわからない。

食べないなら片付けるよ、と言われて私はすっかり止まっていた手を動かした。ウーロン茶が継ぎ足される。美味しい?と聞かれたからとても、と返したらそりゃあ良かったとやっと眦が下がったので私は安堵した。
向かい側に座った彼は私の胃袋に消えていくハンバーグを見つめながらぽつんと呟いた。可哀相なのは俺みたいなのに引っ掛かっちゃったことだな。
なんのことだろうと首を傾げると、ねぇアンタは結婚しないのと言葉が続く。しないよと返す。すると彼は左手の華奢なプラチナリング(去年私が贈った物である)をそうっとなぞってそっかと言った。


乙女心と春の空
(移ろって崩れていく。)


(2009.05.13)
事実だけで生活したいのに。


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