乙女心と秋の空
※原作事実婚でも現パロでもどちらでも。
おかえりダーリン。ご飯にする?お風呂にする?それとも、
なんてべたべたな台詞をにやにやの笑みと下心を顔面に貼り付けて言ってのけた彼は今日は一体全体どうしてしまったのであろう。不信感から顔のパーツが中央に寄った、のを見てそんな顔しなくてもいいじゃないのと不満げに唇を尖らせたのが見えた。
いや、だって、何か変な物でも食べたのかと思って。失礼な。では具合が悪いのかと。アンタは俺を何だと思ってる。
段々下降していく機嫌を阻止すべく、ごめんごめんと軽く謝罪を口にする。春物のコートを脱ぐとすかさず奪い取るように細い腕(というと拳が飛んでくるけども)が伸びてきてぼふぼふと砂埃の類を払い落とす。すぐさまハンガーに吊るされたそれを些か乱暴な手付きでワードローブに突っ込む彼の背中を私はぽかんと見つめた。
お次は足元の鞄が狙われる。中で静かに出番を待っている本日のお持ち帰り書類たちの存在を知ってか知らずか黒い革鞄はコートに比べると少し(ほんの少しだけ)丁寧に扱われソファの上に鎮座、それを目で追っていくと薄クリーム色のソファに目新しい焦げ跡が発見できた。ああまた可哀相にソファは灸を据えられたらしい。だから寝煙草は禁止したのに!
クリスタルの灰皿に突き刺さるまだまだ長い彼のお気に入りのセッタ数本。たばこ税なんてくそくらえと無駄遣いされた嗜好品(吸う気が無いなら火を付けなければいいのに)に若干の憐れみを投げ掛けつつ、ねぇ、怒ってるのかいと呟くと、べつに、と素っ気無い応えが返る。まこと素っ気無いがきっと怒っているわけではないだろう(そもそも怒られるようなことをした記憶も無い)。
むすっとして黒革鞄の横に陣取った彼はぶっきらぼうに言い放つ。ご飯出来てる、ありがとう、ちなみに今日は泡風呂だ、それは贅沢だね。数個の言葉の応酬その後再び顔を出す沈黙。良妻振りを褒めてあげようかとも思ったのだが右ストレートをお見舞いされるのはわかりきっていたので(ああ見えて結構暴力的である)、そのまま沈黙に甘んじた。が、それもすぐに面倒になって言葉を紡いだ。
一緒にお風呂入ろうか。ヤだよ。あ、それとも?ただの冗談でしょーが。では素直に夕食を頂くとするよ。どうぞご自由に。
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