三日月とアマリリス
私が君にとって「その他」になってしまう瞬間がとても怖くて仕方ない。
勿論、君の動作(私の髪を撫でては弧を描く瞳や咄嗟の口付けで朱に染まる頬)が演技だと疑っているわけではないのだけれど、君は本来はとても、そうとてもポーカーフェイスが巧いはずだから、その瞬間を私は見つけられないかもしれない。それが怖い。
天の邪鬼で意地っ張りな君は私の「愛してる」を本当に上手く躱すけれど、後でこっそり拾い上げてくれていることを私は知っている。
にやにや妖しく笑って公然に余裕を振る舞う君が、実は恥ずかしがり屋で心内ではかたかた震えてそれでも私を引き止めていることも。
君を好きな私が好きで、誰がそれを咎めようとも、私は君が大好きで。小さくはない満足を抱きながら不安を覚えるなんて不謹慎にも程があると叱咤しても、心は言うことを聞かない。
大好きだから臆病になる。
「君を縛ってしまいたいんだ」
「は…?」
我ながらいきなりこの発言は酷いだろうと思った。
案の定、セッツァーはぽかんとした顔で私を見つめた。
「え、何、今日そういうことすんの?」
存外的外れな返答。
思い詰めて張り詰めた糸が緩む。思わず笑ってしまった。
「な、なんだよ!アンタが最初に言ったんでしょーが!」
「ああ、まあ、そうだけど…ふふっ」
「笑うな馬鹿!」
赤くなった顔が可愛い。そうだな、縛ってみるのもいいかもしれない、なんて。
「そういうこと、して欲しい?」
「だ れ が!」
「それとも、されたくない?」
すると少し間が空いて、セッツァーは目を逸らせて返した。
「…アンタじゃない奴にはされてたな」
当たり前のように。まあ、拒む権利も俺には無かったんだけどね。
「だけど、アンタがしたいなら考えてやってもいいよ」
「…君は私のこころが読めるのかなあ」
縛って、囲って、好きなようにしてもきっと君はそれなりの対応をしてくれるだろう。その許容が無関心によって引き起こされるものだと君は気付かせないだろうか。気付かせてくれるだろうか。
「馬鹿じゃないの」
アンタの心が読めたらこの世の人間で恐いもんはねぇよ。
セッツァーはむすっとして口を尖らせた。陛下って時々いみわかんないこと言い出すよね。
「どうしたんだよ、いきなり」
まさか本当に縛ってみたいの?そんなに面白くもないぜ?
なんて、真面目に聞いてくる姿が愛おしい。言ったらまた顔を赤くして怒るのだろうか。
「縛らないよ」
「君に抱きついてもらえる方がずっと良いからね」
言うと、セッツァーの口元が三日月を描いた。
「ばーか」
(2009.12.15)
そういう所が好きなのです。
[ 9/26 ][*prev] [short/text/top] [next#]
[しおりを挟む]