WAVE

部屋に入るなり、エドガーはぽいぽいと重たい服を脱ぎ捨てながら歩いてベッドに倒れ込んだ。
書斎の方から天蓋付きベッドの間に点々と衣類の道が出来ている。
俺は、仕方なくその服たちを拾ってやる。

「疲れてんでしょ」
「そうかな」

そんな格好して疲れてないなんてどの口が言うの?
言うと、んー、そうかもしれないなぁと気の抜けた返事がひょろひょろと飛んできた。

「なんか、可愛くなってるぞ」

可愛くなってるって、君ねぇ、とエドガーは苦笑した。
その苦笑も弱々しいというかなんというか、やっぱり疲れてる感じ否めないのだ。

「もう、寝ろよ」

明日の予定は?
聞くと、ちょっとだけ眉をしかめて俺の方に腕を伸ばす。返事をしないということはたぶん、明日もきっと早いのだ。だから彼なりに拗ねているのだ。

「抱かせて」
「俺はいいけど、寝坊して怒られんのはお前だからな」

一瞬、エドガーの瞳が潤んだように見えた。しょげているのだ。似合わない。可愛い。
来てよ、と溜め息のような声。

「触れたいんだ。一緒に寝よう」

ちくしょう、かわいいな。
なんて思ってしまう自分に舌打ち。だが、可愛いモンはかわいい。こればっかりはしかたない。エドガーが悪いのだ。

「俺、体温低いから抱き枕にしたって」
「いい。落ち着く」

ねぇ、お願いだから。そう言われてしまうとどうも抗えないことに最近気付いてしまった。甘い。なんだかいろいろ甘過ぎる。
仕方ないので、彼に倣ってベッドの中に潜り込む。哀しいかな体格差のせいで腕の中にすっぽりと包まれた。長い脚が絡むようにくっついてくる。
やはり疲れているのか、その体温はいつもより僅かながら高いようだ。
エドガーが、くすりと笑ったのがわかった。

「ほんと、いい抱き心地」
「バカにしてんのか」
「してないよ」

お酒の匂いがする。エドガーはまるで動物が懐くように鼻を首元に埋めてきた。
ああ、大きい動物だ。ライオンに懐かれる気分ってこんなもんなのかもしれない。

「ちょっと、飲んだ」
「ちょっと?」

君の「ちょっと」はあんまり信用ならないなあ、なんて失礼な。
エドガーは時々、こうやって俺を子供扱いするのだ。
ちゅ、と触れるだけのキス。

「また美味しいお酒、用意しておくから」

今度は一緒に飲もうよ、ね?
とろとろと零れてくる言葉は柔らかくまるい。たぶん、眠いのだろう。
俺の身体のあちこちをまさぐってくる指先もなんだかたどたどしい。
もう寝ればいいのに、とは思う。
思うがしかし、好きなようにさせてやる。こまめにキスも返してやる。
甘やかされてふにゃふにゃになったエドガーはちょっと貴重なのだ。

「ああ、もう、」

私は君が好きすぎる。どうしよう。食べてしまいたい。
この肌のすべすべな感じとか、指先に引っ掛かる傷跡の感触とか、こつんと浮いてる腰骨だとか、髪の毛とか、声とか、匂いとか、本当、全部好き。
そう言いながらエドガーはべたべたぺたぺた俺に触りまくる。
ちょっと、だめだ、こいつ、はやくなんとかしないと。

「そりゃあ愛されてることで」
「そうだよ」
「てか、もう触んな」
「なんで」
「アンタが寝た後に俺が一人寂しく勤しむことになってもいいんですか」
「それもいいな。見せてよ」
「黙れよ変態」

額を小突いてやると、エドガーはへにゃりととろけた笑みを見せた。薄いシャツ一枚の隔たりの先、心臓がとくとく言っているのが分かる。

「ばかなこと言ってないで、早く寝ろってば」

うん、寝る、寝るよ、と言いながらもちゅうちゅう口付けてくる。まったく此の男は。
とうとう指は背中を撫でるだけに留まった。

「明日は、絶対する」
「はいはい」

じゃあお仕事頑張ってちょうだいね、国王陛下サマ。
と、言おうと思ったら寝ていた。
あどけない顔ですうすうと寝息を立てている。

「(ああ、もう、)」

ほんと、弱ってるエドガーは可愛くてしかたない。
俺はこいつが好き過ぎる。どうしよう。

そして、健やかな寝息を子守唄に、俺は心底幸せな気分で眠るのだ。



(2010.01.25)
ゆらゆらしている安定感。


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