トリカゴ


逃げたかった。
逃げて、逃げて。
誰の手も届かない所へ。

翼が欲しかった。
飛んで、飛んで。
もう誰も、俺を束縛なんて出来やしない。

俺は自由なんだから。



俺は、何処へ行けば良いの?





「自由」なんて、世界中何処にでも落ちているわ。
在り過ぎてみんな見つけられないのよ、美化のし過ぎ。

アタシには翼がある。
アンタにも、あるわ。

あの、何物にも縛られない鳥の様に。

束縛を知らないモノ。
だからって「自由」とは限らないじゃない。

ねぇ。
鳥が「自由」だなんて、誰が決めたの。
何処へでも行けたら自由なの?
それなら「自由」は虚しいモノじゃない。

アンタは自由を追って、永遠に逃げ続けるつもりなの?







それは夜も深い時間のこと。

アタシが部屋から降りて来ると、ソファーで丸まって眠るセッツァーがいた。
どうやら本を読んでいる最中に居眠りしてしまったらしい。
呼吸と共に銀髪が上下する。

羽毛みたいな手触りのその銀糸に指を絡ませてみれば、目鼻立ち整った顔が覗く。
色素の薄い長い睫毛に縁取られている紫の瞳は、今は堅く閉ざされている。

人々が羨む程の容姿も、コイツにはなんの価値も無いらしい。

「勿体ないわねぇ…」

指の間を流れていく銀の波。
細い首も肩も傷だらけで、やっぱり勿体ない。
肌の白さは傷をより引き立たせている。
その上、不健康そうなその色は、コイツの持つ、どこか浮世離れした雰囲気を忠実に表わしている様だ。

こんな所で朝まで寝てたら風邪でも引きかねない。
仕方無く揺り起こしてやろうと思ったら、秀麗な眉が呻き声と共に歪んだ。

「…っ」

何、うなされてんの?
セッツァーは堅くかたく目を瞑って小さく頭を振る。
悪夢から、逃れる様に。

「セッツァー、こら、起きなさいってば」

いつもそうだ。
コイツは悪夢を見ても、自分一人では起きられないらしい。
軽く肩を揺すってやる。

「…の」

の?
寝言言ってんじゃないわよ。

「俺は何処に居れば良いの…」
「……」

何かに怯え、何かから逃げる様にただ、ただ自由が欲しいと、翼が欲しいと、アタシの前に現れたコイツ。

まるで傷付いた銀の小鳥。

翼を得た今、何を怯えるの。
自由を得た今、何を求めるの。
鳥が「自由」だなんて、誰が決めたの。

銀の小鳥。
アンタが欲しがってたモノは此処にあるわ。

血色が良いとは言えないその唇を、自分のそれで塞ぐ。
ついでに鼻もつまんでしまえ。

「んっ…!ん〜っ」

暫くすると、酸素を求めて暴れ出すセッツァー。
開かれた紫の瞳は、アタシを見て戸惑っている。

あはは、面白い。
そろそろ離してやるか、死んだら困るし。

「はぁっ…はぁ…な、何しやがんだダリル!」
「あはは。うなされてたカラ起こしてやったのよーん」
「あんな起こし方があるか!!」

ぎゃあぎゃあ煩いわねぇ…。
アタシはすっと手を差し伸べる。

「アンタの欲しがってたモノは此処にあるわ」
「は?」
「居場所は此処にある。アンタは此処に居ればいいのよ」

淋しがりな銀の小鳥。
今、アンタにトリカゴをあげる。
鳥が「自由」だなんて、誰が決めたの。
疲れたその翼を休める場所が無ければ、自由など虚しいだけじゃない。

自由に焦がれた銀の小鳥。
今、鍵のかからないトリカゴをあげましょう。
アンタは此処に居れば良い。



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