■ ある日の渡り鳥

オーエンが来なくなって、私のお喋り相手は小鳥に戻った。小鳥達はオーエンが居なくても私の窓をノックして現れるから、その度に『今日こそはオーエンもいるのではないか』と期待しては落胆した。
オーエンが来たところで何を話せばいいか困ってしまうから、もういいのだけど。

ドンッ、と鈍い音が窓をノックした。いつもの小鳥の嘴の音ではない。かといってオーエンが立てた音ではなさそうだ。
恐る恐る窓を開いて確認すれば、見慣れない鳥が頭をぶるぶると振っていた。さっきの音はこの子が窓にぶつかった音のようだ。渡り鳥だろうか。この辺りでは見かけない鳥だった。

「……ん?」

鳥は石のようなものを咥えていた。何を咥えているんだろうと近づいて見てみれば、鳥の方もぴょんぴょんと私に近づいて来て、咥えていたものを私に渡した。

「宝石?何の石かな…」

夜が始まったばかりの、青が濃くなった空のような、紫色の見たことのない石だった。

「あ!待って…!」

鳥はやっと身軽になれたと言わんばかりに、さっさと飛び立ってしまった。
私は残されたパープルサファイア擬きをどうするか迷って、とりあえず懐にしまった。何となく、あまり見せびらかさない方がいいような気がしたのだ。
もしかしたら厄介な物を拾ってしまったかもしれないと考えて、少しドキドキした。代り映えのしない毎日の中で、潜在的にスパイスの様なものを求めているのかもしれない。


「うわああああああっ…!」

ただし、今日という日に私の元へやって来た厄介者…もとい、渡り鳥はあの鳥だけでは無かった。





「勝手に姫の部屋に侵入して『無害です』が通じると思ってるのか?」

突然の来客に対し即座に反応して部屋まで駆けつけてくれたのは、この国の騎士団長のレオだった。
レオは素早く剣を抜き、不届き者を牽制し、私を己の後ろへとやった。続いてイズミやツカサといった騎士達も部屋にやって来た。

「ちちちち違うんだ…!魔法の練習をしてたら吹っ飛ばされちゃって!キチンと通行証をもらってこの国に入国したんだ!」

私の部屋に慌ただしく侵入して来たのは、まだ若い赤毛の魔法使いの少年だった。魔法の練習、と聞いてレオは更に彼を警戒したけど、私は彼が悪意を持ってこの部屋に侵入したようには見えなかった。

「レオ、窓を開けっ放しにしていた私も悪いから…」
「あのなぁナマエ…その理論で侵入者を許してたら、この城は賊だらけになるぞ!」
「れおくん敬語!」
「“賊だらけになりますよナマエ姫様”ッ!」

イズミに指摘されたレオが、今はそんなことどうでもいいだろ、と言わんばかりに言い方を訂正した。

「貴方、名前は?」
「うわぁ…お姫様?綺麗なドレス…じゃなくて!く、クロエ・コリンズです!」
「クロエ。ツカサ、衛兵に彼の通行証が本当に発行されてるか確認して来て」
「承知しました姫様」

身元が保証されるまで、クロエの身柄は一時確保となった。クロエに抵抗する様子は見られず、確保されている間は私のドレスや装飾をキラキラとした目で見ていた。

「ドレスが好きなの?」
「えっ!?…あの、はい。俺、仕立て屋になりたいんだ」

一応、一国の姫君でもある私は、それ相応のドレスを身に纏っている。とはいえ、贅の限りを…と言った無駄遣いは好ましくないから、腕の良い仕立て屋に頼んでクオリティで勝負していた。そんな我が国自慢のドレスを褒めてもらえるのは素直に喜ばしい事どある。

「そうだったの!クロエの無実が証明されたら衣装室を見せてあげる。私のドレスはね、全部シュウっていう魔法使いの仕立て屋さんが作ってくれたんだよ」
「いいの!?うわぁ、楽しみ!」

程なくして、クロエの保護者だというラスティカと名乗る魔法使いが現れ、クロエの無実は証明された。
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