■ 切られた髪と大きな鳥

オーエンはよく喋る魔法使いだった。その内容のほとんどが後味の悪かったり、人を不安にさせるようなものだったけど、そんなお喋りをする人が今まで周りにいなかった幼い私は、きゃあきゃあと喜んで彼の話を聞いていた。

「それで、夢の森で死のうとした旅人は本当に死んじゃったの?」
「僕の話に怖気づいて引き返していったよ。つまらないよね」

オーエンは私のリアクションに不満気ではあったものの、次の話をと急かせば渋々話を始めてくれた。

「貴方はどうして小鳥の言葉が分かるの?」
「それは……誰か来る」

楽しい時間は長くは続かなくて、オーエンは話を止めると部屋の扉の奥を睨んでいた。

「見つかったら面倒だから帰ろうかな」
「えっ、もう?明日も来てくれる?」
「…レイが回復しなきゃね。回復したら無理。彼奴の結界を僕は潜れないから」

行かないでと掴んだ手を振り解かれてしまわないか不安だったけど、オーエンは一瞥しただけで振り払いはしなかった。

「わたし、もっと貴方とお話したい…」

もしかしたらオーエンは悪い魔法使いで、一国の姫である私を唆しに来たのかもしれない。けれど幼い私はそんな事まで頭が回らず、ただただオーエンが紡いでくれる新鮮なお話をもっと聞きたいと駄々を捏ねていた。

「媒介」
「ばいかい?」
「お姫様の媒介があればバレずに潜れるかも。例えば目とか、血とか…」

【ばいかい】が何か分からなかったけど、つまりは私の身体の一部が必要とのことだった。オーエンの手が私の瞼に触れて、それは困ると慌てて断った。

「髪は?髪なら簡単に切れるし、痛くないもの」
「じゃあ僕にその髪を頂戴」

いいよ、と答える前にドアが乱暴気味にノックされた。

「姫君!君の部屋から不審な気配がするので入らせてもらうのだよ!」

待ってと言う前にドアが開けられた。入って来たのは城付の魔法使いのシュウだった。息を切らせている辺り、急いで駆けつけて来てくれたのだろう。私はオーエンが見つかってはまずいと思って振り返ったけど、そこにはもうオーエンの姿は無かった。

「姫君…!髪がっ…」

振り返った時、妙に頭が軽く感じた。その感覚は気のせいではなく、腰まであったはずの私の髪は、肩の辺りまでバッサリと無くなっていた。確かに髪をあげるとは言ったけど、ここまでとは聞いていない。

「何があったのだね!?」
「えっと…」

苦しい言い訳になるかもしれないが、大きな鳥が現れて私の髪を引き裂いて行ってしまった、などと言って誤魔化した。自由の身のオーエンが私には大きな鳥にも見えたので、嘘は言っていない。シュウは納得のいかない様子だったけど、非常時でもあった為か『魔法使いなら迂闊に自分の身体の一部を他人に明け渡さないように』と釘を刺して戻ってしまった。

あの日からオーエンは定期的に私の元へ訪れてくれるようになった。
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