番外編 | ナノ

ローズクォーツ


■青春と花嵐のノスタルジー


3校合併なんて言われても、人見知りの私からしたら何も嬉しくない。入学から1年が経ってやっと学友にも環境にも慣れて来たというのに、またやり直しである。ましてや合併する2校が『不良校』と『芸能校』だというのだから、真面目だけが取り柄な私と友人になれる人達がいるなんて到底思えない。芸能校はまだいい。陽キャの集まりでキラキラしてて怖いけど、害は無い。問題は不良校だ。普通に怖いし、とっつきにくいし、いきなり喧嘩始めるし、間違いなく校内の治安が悪くなった。最近では不良校の人とはなるべく目を合わせないようにする為、ずっと俯いて歩いている。触らぬ神に祟りなし。目を合わせさえしなきゃ、あっちも何もしてこないだろうと信じて、今日も重たい足を引きずり登校した。


「探したんだけど」

さっき言った通り、不良校の人との接触にはかなり気をつけているつもりだった。なのに、いきなり知らない男の子に腕を掴まれそう言われてしまった。探したんだけど、と言われても全く心当たりが無い。誰か他の子と間違えてるんだろうと言いたいけど、怖くて上手く喋れない。

「ひと、ちがいじゃ、ないですか…?」

やっとの事で出た声は情けないほどに震えていたけど仕方ない。
不良校に知り合いなんていない。怖かったけど勇気を出して顔を上げて、目を見て訴えた。人違いですよと。

「やっぱりナマエだ」

私には身に覚えが無いにも関わらず、この男の子は私を知っているようだった。
顔を上げて視線を合わせた事で、とても綺麗な顔をした子だと気がついた。こんなに綺麗な顔の子と会ったことがあるならまず忘れないはずだから、『ナマエ違い』だと思いたいのだけど、そんな事があるのだろうか。

「ごめんなさい…どなたですか?」
「オーエンだよ」

名前を聞いたら思い出すかもと思ったけど、ダメだった。オーエンという名前に聞き覚えはない。

「僕のこと覚えてないの?」
「あの、本当ごめんなさい…全然…」
「ちょっと、そんなに震えないでよ。ナマエに酷いことする気なんて無いから」

不良校の生徒といえばあまりいい噂を聞かないから、ボコボコにされてしまうのかと泣きそうになってしまったけど、オーエン…さんは予想に反して優しく私の目尻を指で拭ってくれた。

「何も覚えてないの?ファウストは?」
「ファウスト?兄のことを知ってるんですか?」
「へぇ…今度はちゃんと家族として生まれて来れたんだ。良かったね」

今度は、が何を示しているのかさっぱり分からないが、オーエンさんは人違いではなく『私』自身を探していたので間違いないようだった。

「まぁ、ブラッドリーもミスラも何も覚えてなかったから当然か」
「せめて具体的なエピソードとかあれば思い出せるかもしれないのですが…」

あまりにも自信満々に私を知っていると言い切っているオーエンさんだけど、具体的なエピソードを聞いたらこっちも自信を持って何かの勘違いですって言えるかもしれないし…せめていつ頃、どういう繋がりの知り合いだったのかくらいは教えてほしい。

「僕の誕生日を祝ってくれた」
「…すいません、記憶に無いです」
「ファウストとの事でメソメソしてた夜に部屋に泊めてあげた」
「本当に記憶に無いです…!」

泊まったって、私が?オーエンさんの部屋に?全くもって記憶に無いのだけど、オーエンさんは覚えていない前提で語ってるようにも見えるから、どれだけ否定しても無駄なようだ。

「敬語いらない」
「えぇっと…オーエンさんは3年生ですよね?」
「オーエンって呼んでよ」
「話通じてますか?」

まさか、口説かれている…?とも思ったけど、口説かれる理由が見当たらない。一目惚れするタイプにも見えない。

「あの、やっぱり人違いだと思うんです」
「………」

オーエンさんは私のことを他の誰かと勘違いしたまま記憶してる…という結論が1番しっくり来た。知らない思い出を語られて、大切なものを見るように見つめられて、段々申し訳なくなってくる。

「ナマエが僕を覚えてなくても、僕はずっとお前を覚えてたよ」
「だからそれは…っ」

私じゃない誰かだと思うんです、と続けようとした口が塞がれた。何が起こったのか分からなかったけど、オーエンさんの顔がすごく近いということだけは理解出来た。徐々に唇の柔らかい感触に気がついて、キスされているのだと理解した。

「思い出さなくてもいいから、また僕を好きになって」
「…………」

だから、全く身に覚えが無いし、身に覚えが無いということは私にとってオーエンさんは初対面の人だし、キスなんてした事無かったし、ファーストキスは好きな人とロマンチックに迎えたかった。

「ふぇ……」
「え」

高校生にもなって人前で泣きたくなんて無かったけど、ビックリとショックがキャパオーバーして涙となって溢れ出てきた。

「うっ…うっ……なんで、おにいちゃっ……うう………」

メソメソと泣き始めた私を見て、オーエンさんは顔色を変えていた。冷淡な人物に見えたけど、私が泣いたことに焦っているようだった。

「な、泣くほど嫌がらなくってもいいだろ?目が腫れるから擦るなよ」
「ぐすっ…大丈夫です…ほっておいて……」
「 ほら、チョコレートあげるから」
「いらないです……」

おろおろと私の涙を止めようとするオーエンさんは悪い人ではないのかもしれないけど、私にとっては良くない人だ。

「どうしたら許してくれる?」

良くない人だけど、私に縋るような目で見てくるオーエンさんが何だか可哀想に見えて、突き放すことも出来なかった。

「なんで、いきなりキスなんてしたんですか…?」
「キスしたら思い出すかなって思ったんだよ…」

まさか泣いて嫌がられるなんて思わなかったた、とバツが悪そうにするオーエンさんに、最初から最後までその自信はどこから来るんだと愕然としてしまった。

ただ…
確かに私は、以前オーエン…さんにキスをされて泣いたことがあるような…デジャブのような何かを感じた気がした。

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