魔法使いの約束 | ナノ

泣き面の蜂蜜



「俺はカイン。あんたも若い魔法使いなんだろ?よろしくなっ!」


カインと初めて会った時に、まず目が行ったのは左右で違う色の瞳だった。この世界でも珍しいオッドアイ。そしてその左眼の紅い色には猛烈に見覚えがあったし、右眼の蜂蜜色にも見覚えがあった。
後にオーエンに左眼を奪われ、その際魔法使いだとバレてしまい、挙句に騎士団長をクビになった、という話を聞いて、何故だか私がとても申し訳なくなったのだった。

そんなカインとの、1年前のとある日の昼の事である。

「ああナマエ、会えて良かった!これからメシでも一緒にどうだ?」
「本当?今から帰るところだったけど、せっかくなら食べて行こうかな」
「決まりだな」

お使いを頼まれて中央へ来ていたら、カインに溌剌と声をかけられた。相変わらずの好青年である。断る理由も無いから快く了承すれば、美味しいケーキで有名なお店に連れてってくれた。

「カインがこんなお店に来たいだなんて意外」
「分かるか?実はずっと気になってたんだけど俺1人だと入りにくかったんだ」
「なるほど」

女性客メインのお店に、カインのような男らしい男性が1人では居心地悪いだろう。だから誘われたのだと合点がいった。
注文を伺いに来たマダムに、私は野菜たっぷりのパスタ、カインはソーセージが乗ったピッツァと、それぞれドリンクを頼んだ。

「ケーキは食べないのか?」
「カインが注文しないみたいだったから…何となく」

気になってはいたけど、1人で食べるのも何だか寂しいと感じてしまうのだ。

「そうだったのか。じゃあ俺もパイを頼むから、ナマエも好きなケーキを頼むといいさ」
「そう?」

若干気を使わせてしまった感じはあるけど、カインは甘いものが苦手では無かったはずだし、付き合ってくれるというなら私も何か頼もう。ケーキが陳列されたショーケースを眺めれば、季節のフルーツがたくさん乗ったタルトが目に入った。フルーツがたくさん乗っていて豪華で、お値段も豪華だった。端的に言えば予算オーバーである。

「ははっ、好きなの食べろよ!今日は俺の奢りだ」
「いやいや悪いよ」

そんなに全部が全部、顔に出ていただろうか。何も無しにお店の中で1番高いケーキを奢ってもらうのは気が引けたから、丁重にお断りした。

「今日付き合ってくれたお礼だ。ここは奢らせてくれ」

しかしカインは引かなかった。何がそうさせたのかは分からないけど、こうと決めたらなかなか譲らない男だとは聞いていた。

「う〜ん…じゃあいつかお礼をさせてね」
「それいいな!また来よう」

次がある流れになってしまった。カインは大雑把に見えて、こういうところはスマートなのだと初めて知った。国が抱える騎士団をまとめていただけのことはある。

「お代なんていらないよカイン騎士団長!」

私達のやりとりを聞いていたのか、マダムが笑いながら料理を運んで来てくれた。パスタもピッツァもとても美味しそうである。

「気持ちは嬉しいがお代は払うさマダム」

マダムは本気で言っているようだった。騎士団長の立場を追われても、未だにカインは人気者なのだと改めて体感した。確かに今のニコラスとかいう人は陰気で、余り人気がでるタイプでも無いしね。

「カイン騎士団がせっかくの誕生日に女の子と来る店にウチを選んでくれたんだ!お金なんて受け取れないさ」

初耳である。

「ま、マダムっ…!」
「カイン今日誕生日だったの!?おめでとう…!」

言ってくれれば私が支払っていたし…
そもそも誕生日にランチを一緒にする相手が私で良かったのだろうか。

「変に気を使わせたくなくて黙ってたんだが…バレちまったか」

これは一体どういう意図があって今日私が選ばれたのだろう。カラカラと笑うカインからは恋慕等の照れは感じとれないけど。

「言ってくれれば良かったのに」

誕生日に女の子と過ごしたかっただけ、その可能性が高いかな。だったとしたら無駄に意識するだけカインに失礼だ。

「誕生日だって言ったら手でも繋いでくれたか?」
「えっ」

私とカインが手を?騎士団ジョーク?それとも栄光の街ではこういったやり取りが常套句なのだろうか。
私が今までまともに接した同じ年頃の男性なんてアーサーだけで、アーサーは真っ直ぐな事しか言わないから…つまりはこういう駆け引きには慣れていない私はしどろもどろしてしまった。

ふむ、どう返そうか。

「………スノウとホワイトに、要相談で」
「分かった分かった!俺が悪かったからお二人にチクるのはやめてくれ!」

多分あの2人は喜ぶと思うけど。ああでも、カインと手を繋いだりしたら(私に嫉妬した)オーエンが面倒そうで、カインも被害受けるだろう。出来れば避けたい選択肢だ。

「変な冗談言ってからかわないで」
「冗談ではないさ。ただまぁ…時期尚早というか……なぁ?」

何が時期尚早なのかよく分からないけど、冗談ではなければ本気でも無かったようだ。

「カインはモテるでしょ?」
「あっはは!どうだろうな?確かに誕生日を一緒に過ごしてくれる女の子は選べるかもな!」
「…………」

だから一体それはどういう意味で言っているのか。絶対スノウとホワイトにチクってやると誓った。私が2人に『カインってばこんな事を言って来たの。どういう意味だと思う?』なんて言えば、カインはたちまちオモチャにされるだろう。

「今年は一緒に祝ってくれるだけで嬉しいさ」
「“今年は”?」
「来年も一緒に祝ってくれたなら、その時は手でも繋いでくれ」

その時は尚早では無いのだろうか。
おかしいな。こんなに振り回されることになるなんて。北の魔女らしくない。
北の魔法使いにとってプライドは大事なものだ。と、ブラッドリーに教わった。

「…じゃあ、来年までに頑張って私を口説かなきゃね」

ここまで言えばカインのペースを乱す事が出来るだろうと、台詞の恥ずかしさを押し殺して微笑んでみた。

「言ったな?」

しかしいつもの様にニカッと笑ったカインを見て、どうしてオーエンがカインに執着するのか少し分かった気がする。
どうにかして負かしてやりたいのだけど、勝てる気がしないから腹立たしいのだ。
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