狼とクローバー | ナノ

ミッディティー


「賢者様こんにちは!」
「ナマエ、こんにちは!」

ナマエがまた魔法舎に遊びに来てくれるようになった。人見知りなナマエだけど、私には気を許してくれているようで、最近は私を見かけると嬉しそうに駆け寄って来るから私も嬉しい。
ただ1つ気になるのは、ナマエが来るとどこからともなくオーエンも現れて、意味もなくナマエの後をついて回るようになった事だ。少し前まで2人はギクシャクしていたから、仲直り出来たのならそれに越した事は無いのだけど…なんというか、うん。気になって仕方ない。

「お、オーエンもこんにちは…」
「こんにちは、賢者様」
「………」
「………」

個人的な話、オーエンは自力でナマエに会いに行けるのだから、ナマエが魔法舎に来てくれた時くらい私にナマエを譲って欲しいのだけど、そうもいかないらしい。どうしてこうなったのかをナマエに聞きたくて仕方ないのだけど、オーエン本人の前でそれを語ってもらうのは難しいだろうし…

「オーエン、賢者様と2人でお話ししたいからどこかで待っててくれる?」

私とオーエンの無言の見つめ合い(という名の牽制し合い)を見て、ナマエは察してくれたようだった。ナマエが私と自分を天秤にかけ、自分が捨てられたのだと感じたオーエンは、私をジトッと睨みつけて来た。怖いです。

「別にいいけど…ねぇ、今日はまだでしょ?」
「あああああ後でねっ!」

“今日はまだ”とは?どうやらオーエンはナマエにその“まだ”な何かを求めてついて回ってるようだった。

「ふぅん…まぁいいか。僕、部屋にいるから」
「うん、後でね!」

少し前まではやさぐれていたオーエンだったけど、だいぶ調子を取り戻したようだった。私達に対してはそれこそ以前と変わらぬオーエンに戻ったけど、ナマエに対しては前よりも優しい顔を向けるようになった気がする。

「ナマエ、色々聞いてもいいですか?」
「お手柔らかにお願いします…」

あれ?このナマエの反応もしかして?

えっ…そういうこと!?

「率直に聞きますけど、あの、まさかオーエンと付き合ってます?」
「う〜ん…付き合ってるとはまた違うと思うんだけど」

付き合ってはいないのか。脳裏にファウストの顔が浮かんだ。ファウストがこの場にいたのなら、間違いなく胸を撫で下ろしていたはずだ。

「約束した訳じゃないけど、お願いをしたの」
「お願い?」
「きっ…キスしてもいいけど、私以外とはしないでね。人前は嫌だからねって」
「わぉ…オーエンはなんて?」
「『分かった、人前は我慢する。そもそもナマエ以外のやつとなんでキスなんかしなきゃいけないのさ』…的なことを」

ナマエの顔は真っ赤だった。
オーエンは誰かと付き合うとかそういう概念無さそうだからそうはならないだけで、2人の関係に名前をつけるなら“恋人”だと思う。

「賢者様、オーエンに色々言ってくれたんでしょ?ありがとう」
「いえいえ!大したことは出来ないのですがお役に立ったなら良かったです!」

まさかこんな事になるとは思っていなかったけど、不器用な2人が2人で落とし所を見つけられたのなら良かった。

「私ね、多分オーエンのことが好きなの」
「そんな事言われちゃったらキュンキュンしちゃいますよね」

オーエンは変なところで天邪鬼だけど、変なところで素直だからな。いや、私がそんな事をオーエンに言われたら何を考えているのかと恐怖でしか無いけど、ナマエに対しては優しさを見せてるようだから、ときめいてしまうのも頷ける。

「オーエンが私の事をどう思ってるのかイマイチ分からないところは多いけど、私がオーエンを好きだからそれでいいかなって。オーエンが飽きるまで一緒にいようっていうのが私の結論」

『魔法使いは長生きだから、そんな初恋も悪くないよね』と笑ったナマエは素敵だった。恋をして一歩大人の女性に近づいたのかもしれない。

「そこまで言ったのならナマエの方が先に僕に飽きるとか絶対やめてよね」
「オーエン!?部屋に居たんじゃないの?」
「遅いよ。賢者様、もういいでしょ?」

遅いというほど時間は経っていないと思うのですが…という口答えは許されそうになかった。心なしかオーエンの視線がナマエの唇に向いてような気がして、さっきの“今日はまだ”という発言を思い出した。
多分、オーエンはナマエとキスがしたいんだろう。でも他人の前ではしないというルールを守って出来ないから、ヤキモキしてるんだと思う。要は私に、早くキスしたいからさっさとどっか行け、と言いたいんだろう。

「一旦ナマエはオーエンにお返ししますが、また私に貸してくださいね」
「ふん。気が向いたらね」

ナマエはオーエンが自分のことをどう思ってるのか分からないと言っていたけど、大丈夫ですよ。オーエンもちゃんとナマエの事が好きだと思います。ただその感情が何なのか分からなくて自分でも戸惑っているだけのようなので、いつかきっと答えが出るはすです。

「 賢者様、今度はオーエンがいない時に遊びに来るね」
「何でだよ」
「楽しみにしてますね」

やきもちを妬いてるオーエンを見て可愛いと思った。いつもこれくらい可愛げがあるといいんだけど、なかなかそうもいかないだろうな。
私がその場を後にすれば、それまで後ろから聞こえて来ていた2人の話し声が不自然に途切れた。オーエンは結構肉食系なんだなぁ…て何だかコッチが恥ずかしくなったり。





「なっ…!?《サティルクナート・ムルクリード》」

あ、待ってください。
トラブルが発生したようなので即引き返すことになりました。

そりゃそうなりますよね。

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