「う、うぐ…ッ、ふ、う」

高い天井と打ちっぱなしのコンクリートは音を増幅させる。
熱を持った自分の声と連続するヴァイブレーションがだだっ広い場内にまるでサラウンドのように響いて、それは余計に土方の羞恥心を煽った。

口に嵌められたボールは、発する言葉をことごとく意味のない母音の羅列に変えてしまう。
そうでなくても、体内深くを抉るプラスチックによって押し出されるのは色を帯びたただの嬌声だった。

折り曲げた状態で太股と足首を左右それぞれ縄で縛られ、両手首もぎちりと縛られたうえ、しっかりと背中に縛り付けられている。
顔を床に擦り付け、腰を後ろに突き出すような体勢のせいで、嵌められた玩具は振動につられてずりずりと抜けていってしまう。
それが入り口まで出かかったところでぐいと奥まで押し込む、という動作を高杉は先ほどから何度か繰り返していた。

押し込むたびに、土方の背中はびくんとしなり、口からは呻きがもれる。
それを鼻で笑いながら、高杉は何度目かに顔を現したそれを、今度はぐっと引っ張った。

「んんうーっ!」
一気に排出をさせられて、土方の腰がぶるぶると震えた。
間髪をいれずに、また次の玩具が差し込まれる。
豆粒大の疣が無数についた張り型が、無遠慮に土方の後孔にぶち込まれた。

「ふぐううう…っ!」

高杉はそれを奥まで突っ込むと、荒い呼吸を繰り返す土方の身体を裏返す。
太股と足首を繋がれているせいで、だらんと足を左右に開いた土方の身体の間に割って入り、淫靡な紫色の玩具の先端を掴んだ。

「うう、ぐ…っ、うふぅ…!!」
「気持ちイイか、オイ」

ずちゅずちゅとそれを動かすと、過ぎる快感から逃れたいのか、土方は殆んど自由の効かない身体を懸命に振った。
どうやら気を失っている間に媚薬でも一服盛られたらしい。真っ赤に火照ったその身体は、初めて拓かれる場所への刺激をすべて快感に変換してしまうようだった。
土方の欲望はもうぱんぱんに起ちあがって、解放への刺激をもとめてびくびくと波打っている。
しかし、その根元にはご丁寧に金属の輪が嵌めてあって、なんども訪れるあと一歩のエクスタシーは、そのたびに土方を内から外から苛んだ。

それでも高杉を見つめる瞳は、いまだ鋭い光を絶やさない。
微かな、でもしっかりと燃え続ける焔を瞳孔に見とめて、高杉は背筋に喜悦が走るのを感じた。

(クク、虐めがいがあるってモンよ…)

己の中の加虐趣味を自覚している高杉にとって、すぐ折れてしまうような刃は張り合いがなくてつまらない。
できるだけ研ぎ澄まされた上等な刀こそ、折ったときの快感は格別なのであった。


ぐりぐりと内壁をえぐるように玩具を動かすと、太股をひくひく痙攣させながら土方が呻く。
顔のあたりにしゃがみこむと、高杉はその口に含ませていたボールを外してやった。

「ごほっ、ぐ…っ、はあ…っ」
「てめえの涎で手が汚れちまったじゃねーかオイ」
「…く、あ…っ、ああっ、うう、う!」

言いながら玩具にかけた手を止めることはしない。
おかげで、口内から異物が取り除かれたにも関わらず、土方は抗議の言葉一つあげることも能わなかった。

「あ、あああっん…は…あ……」

ぎりぎりまで張型を突っ込んで、器官の奥まで刺激してやると、土方は切なげに眉を寄せながら背筋をぶるぶると震わせた。
高杉は散らばった道具の中から蓋の開いたボトルを片手で探り寄せると、挿入部分にそのどろりとした中身を垂らす。
馴染ませるように何度か張型をぐじゅぐじゅと動かして、高杉はどろどろに濡れたそれを抜き去った。

「はあ…っ、はあ…っ…」
「イイ顔になりやがったな」

女よりも男ほうが色気がある、というのはややもすると事実だろう。
震える吐息ひとつとっても、じっとりとした熱を孕み押し殺すように吐き出されるそれは、聞いた者の聴覚を犯すような威力さえある。

高杉は尚も己を見据えてくる双眸に満足げに鼻を鳴らすと、紅潮した身体に食い込む縄に短刀の刃を当てた。
ぶち、と鈍い音がして土方の両手足を戒めていた縄が解かれる。
怪訝そうな顔をした土方の両腿に手をかけてがばりと開くと、高杉は足の間に己の身を置いた。

(鎖は解いてやったんだ…逃げようと思えば逃げられる)
(だが)

膝裏に手をかけて、それをぐいと押し倒す。
腰が浮き上がるほど持ち上げられて初めて、土方の顔に焦りの色が過ぎった。

(逃げられるはずもねえ)

ゆるく起ちあがったそれを高杉は乱暴に捻りこんだ。
熱をもった有機物が押し入ってくる感触に、土方は目を見開いて抵抗しようとする。
しかし、薬を盛られ散々中を侵された身体は、物理的な戒めを解かれてのちも自由にはならない。

「あ、あ…やめ…ッ」
「あちィな…」
「ひ…ッ、あ、ああ…」

奥まで収めきった高杉に見下ろされ、土方は無意識にか後孔をきゅうと締めた。
に、と笑みを浮かべると、高杉はゆっくりと律動を始めた。

「あ、あ…っ、やッ…」
「ハ、なかなか具合がいいじゃねーか」
「う、うっ…あ、あぁ…ッ」

だんだんと打ち付ける腰のリズムを速めてゆく。
高杉のモノが奥まで侵すたびに、土方は弛緩しきった身体をもてあましながら力ない声をあげた。

ガンガンと奥をえぐりながら、高杉は上半身を倒して土方の胸へと口を寄せた。尖りきった赤い突起を舌でなぞり、唇で挟んで弄び、歯を立てる。
ひぁ、とまるで生娘のような声が上がって、高杉のモノを咥えた後孔がびくっと波打った。

高杉は足を押さえていた片方の手を反対側の突起にやって、腰を突き上げながらくりくりと左右の飾りをいじる。土方は自由な手で高杉の手首を掴んで離そうとするが、逆に摘ままれたままの突起を引っ張られる形となって、びりりと右胸に走った痛みに顔をしかめた。

「あ、あ、…んく、ひう…っ」
「乳首いじられて穴締めるなんてどこの変態だよ」
「くそ…ッ、はな…せ、よ…っ!」
「乳首触られてイってみろよ」
「や、や…っ、ひ、い、あ…ッ」

片方はぎゅうと引っ張られ、片方は舌で潰され、じいんとした痺れがダイレクトに快感を引っぱり出す。
だいぶスピードを増した腰つきは、ぐちゃぐちゃと水音をたてながら土方の中身を奔放に掻き混ぜた。

「は、そろそろイきそうだな…」
「う、あ…っ、あん、は…、や!」
「てめえは出さないでイけ」
「ん…っ、ひ、う…あっ、あ、あ!」

奥を何度も何度も擦りあげられ、溜まった快感は解放を求めてさまよう。戯れに突起を噛まれ、ぐいと土方の背中が反った。

「ひい…っ、あ、あ、うああ」

容赦なく打ち付けてくる腰が一歩ずつエクスタシーへの階段をのぼらせてゆく。イケ、と耳元で囁かれて最後の階段をのぼりきってしまった土方に、普段とは違う体中を痺れさせるような絶頂が訪れる。
ほぼ同時に達した高杉はモノを収めたまま、中に向かって射精をした。熱いものが溯る感覚に、無理矢理開かれた太股がびくびくと痙攣した。

「あ、あ……は、あ…」

中に男の欲望を受けてしまった屈辱ゆえか、土方は放心したように全身を投げ出したまま動かない。とうとう出すことの許されなかった欲望には、焦ったようにどくどくと血が巡る。
繋がったままの高杉が輪を外してやると、勢いのない白濁がまるで小水のように流れ出した。

「はあ…っ、あ…、ああ、」

手早く己のモノを抜き取ると、高杉は軽くそれを拭って乱れた着物を直す。

「くく、泣くほどよかったか?」
「はあ…はあ…は…」

土方の目元に濡れたあとを見とめて高杉が喉で笑う。
力の入らない身体を横たえたまま、土方はそれでも目だけ動かして高杉を睨みつけた。

「じゃ、あとやっとけよ」
「はッ」
「ふ、また遊んでやるから待ってな…」

意味深な台詞を残すと、高杉はくるりと踵を返した。
いつのまにか高杉の背後に控えていた黒服の男たちが、身を翻して去ってゆく高杉に深く礼をした。
隻眼が扉の向こうに消えると、徐に懐から器械を取り出して土方に向かって構える。
パシャ、パシャと機械的な音が響いて、浴びせかけられるライトに初めて写真を撮られているのだと土方は気付いた。

拘束され、長いこと体内を蹂躙されていたせいで痺れた四肢は汚された己の身を隠すことすら叶わない。なすがままに気だるい肢体を被写体にされ、それでも土方はレンズから目を逸らさずに、その向こうで笑っているであろう隻眼を睨むことで精一杯の抵抗をした。
何枚か写真を撮り終えると、男たちは飛散する道具を白い手袋を嵌めた手で拾い集めて、もとあった袋に回収すると足早に去っていった。土方は急にだだっ広い空間にひとり取り残される。
着ていた服が部屋の隅に畳んで置かれているのを見とめると、土方はかろうじて腕をついて起き上がった。両の手首には、縄の擦れたあとが痛々しく爪痕を残す。


工場の裏手のほうで、車が発進する鈍い音が聞こえた。
だんだんと小さくなってゆくそのエンジン音に被さるように、反対側からサイレンの音が響いてくる。

身体につけられた傷跡はいずれ治癒しようとも、妖しい笑みと共に持ち去られたフィルムと、脳裏に刻まれた生々しい記憶は簡単には消えそうにない。

暗闇を切り裂くようなサイレンを聞きながら、土方は起こりうる最悪の結末を考えていた。


閉め切られた倉庫の外で、真っ赤に色づいた鬼灯がひとつ、音もなく爆ぜた。


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