俺が俺で俺は俺

怖いのです。


たった一言のアンドロイドという類いに括られ、レンという一個人として認められないのが。

金色に揺れる細い髪も、私を見て微笑む瞳も、どんなに下手な曲でも笑って歌ってくれる所も、全て、全て、そこらで歩き回っている『レン』とは違うじゃない。

あそこの公園で遊んでいるレンは私の名前を呼ばないし知らない。

直ぐ側の道を散歩するレンだって私を見て微笑みはしない。


怖い、怖いのです。


一緒にされ、いつか忘れ去られて行くのが。




「...○○?」


ふわりと聞き慣れた声が私を現実へと、否、夢へと引き返す。


「窓ばかり見てたら冷えるよ?」


「うん、...冷えるね」


肩に掛けられたショールはわざわざ持って来てくれたみたいで嬉しかった。



「...大丈夫?」


「少しだけ。でも大丈夫、」


他人は他人。
レンはレン。


何もかも私が覚えてればいいだけの事。
だけど不安になるのは私はきっとレンよりも早く消えてしまうからなんだろう。
「泣きそうな顔しないでよ○○。俺まで泣きそうになる」

「じゃあ泣こうかな」

「え、」

「嘘だから。てゆうか私の涙は高いからね」


馬鹿じゃねぇの、と2人で笑いながら、少し、ほんの少しだけ涙を流した。







(ごめんね、ごめんね...っ。私、忘れないからね...!)







きっと○○は知らない。
俺も一緒に涙を落とした事を。







(...あなただあれ?...新しいお医者さん?あ...私知ってる、鏡音レンだ...!)
(違うよ、○○。レンだよ。○○だけのレンだよ...っ)



思い出さなくてもいい、ただ、君だけの俺で居させて下さい...。





end



アルツハイマーが治る医療が
あればいいのに、と
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20100215


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