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女の勘は私にもあったらしい。




レンはゴミ捨て場を前に小さくうずくまっていた。





別段何をする訳でもなく、ただ小さく。
その背中は今にも抱きつきたいくらい、寂しさを感じた。






少し近づくのに躊躇う足は、レンに近づいて行く。






「レン」







「{だ、れ…}」






「…!」







ぎゅう、と締め付けられた胸はすくなかず痛む。


でも今はそんな事構ってられない。






私の好きなレンは今自分の中で戦ってるんだから。
これは過去のレン。




…落ち着け、大丈夫だから。






すぅ、と深呼吸をしてまた近づく。





こっちを向いてくれないレンはずっとゴミ捨て場を眺めていた。






小雨の雨がなんともいえない雰囲気を作る。
出来れば今すぐにでも止んでほしいんだけど。






「レン、家に帰ろう?」



出来るだけ近づいて話しかけてみる。




家に帰ってからでも大丈夫なはず。
まだ朝まで時間があるから。







「{帰る家なんてない…此処が俺の居場所になったから。マスターに、捨て、}」




「そんな事、言わないで」






キツく、どうかこの思いが届きますようにと抱きしめる。
このレンの時間は此処で止まったんだね…。






身体は大きいのに異様に小さく感じるその背中はレンの幼さを感じた。







「私が居るから…私でよかったらレンの存在理由になるから…」





お願いだから、泣かないで。












「{俺の声なんて聞こえてないって知ってた…でも、俺を見て欲しかった。ボーカロイドの鏡音レンとして。…マスターにはただのモノだったけど}」






はは、と笑うその声は聞いていて悲しかった。





少し離れてレンと向き合うようにしゃがみこむ。
涙は静かに音をた立てずに流れていた。




雨と勘違いしそうな、そんな涙。






レンの瞳は昨日見た、何も映していない瞳。
それで一気に不安が広がる。



でも、私がこんな気持ちになってる場合じゃない。




きゅ、と理子にやられたように私もレンの頬をつまんでみた。




涙が冷たい。
それは雨のせいなの?





きゅう、と締め付けられる心臓と溢れそうな想いに言葉が零れる。








「大好き…」





多分これは愛してるに近いけど。





そんな風に思いながら私からそ、と口付けをした。




本当、冷たい。
場所が場所だけどね。





一瞬触れるだけのキスは呆気なく終わる。





「昨日も言ったけど、お話なら王子様がお姫様にキスするのよ」








もうこの際なんでもいいから目を覚まして…!
私を見て、馬鹿○○って言ってよ。







そうしたら思いっきり笑えるから。

























「{お姉さん夢見すぎだと思うよ…}」





「案外辛口はそのままなのね」





もっと幼いイメージがあったんだけど意外と痛いところを突いてくる。



さすがレン。
将来有望な腹黒候補だよあんたは。








「{なんでキスしたの?…ねぇ、もう俺の事放っておいてよ。お姉さんにはなにも関係ないでしょ?}」














ブチ、と何処かの線が切れる。
あ、血管の間違いかも。





本当最近の若者はずぐに切れるからイヤだわ、なんて思いながらも私だってまだ花の高校生。
立派に今を代表する若者なわけで。





きっとレンも覚悟してるだろうと思う。





今日の晩御飯が牛乳と煮干だって事をな!!








「…関係ないなんてよく言えたねその口。耳の穴ほじくり回してよく聞きなさい!私はねレンが大好きなの、これさっき言ったわね?あと好きでも無いヤツにキスするなんて安い女じゃない。それにねヤンデレなレンを構うなんて、相当好きじゃなかったら近づきもしないわっ!!コレ聞いてもまだ関係ないなんて言い出したらバナナ一生禁止にするからね!!」








小さなマシンガントークを終えて一息。
いつまでもヤンデレはいただけない!




なんとか元のレンに戻ってもらうの!!
てゆうかこのレンを受け入れてレンに戻って欲しい。








「ね、お願いだから、私の名前呼んでよ…」







虚勢も何もかも、レンの前では崩れて本当の自分になる。
ポロポロと零れる涙はきっと雨と同化するんだと思う。




名前を呼んでもらえないのは寂しい。



私を映してくれないのが悲しい。





いまだにレンの瞳が固まってるのが、切ない。











「苦しいよ…レンと会えないでレンの事ばっかり考えるの。それにね、まだ1日会ってないだけなのに何処が穴が開いてるような感覚がする…。レン、私じゃ駄目かな…?」








私じゃレンの存在理由にはなれないのかな…。






ボロボロボロボロ。
最近の私はよく泣く。
レンのせいなんだからね…。





不意にきゅ、と流れている涙を拭かれた。








「{泣かないで…。貴女が泣いたらここが痛くなる}」






胸の辺りの服をぎゅう、と握り締めながら囁かれる言葉。




私もレンにそんな表情されたら痛くなるよ…。








「大好き…なんでもするから、お願いだから私の名前呼んで笑って…馬鹿でもなんでもいいから!!」





いつもみたいに笑って欲しい。














「レン、愛してる」


































「お、れ…も愛してる。○○が、俺の存在理由だから…」








ぎゅう、と雨の冷たさを忘れるかのように抱きしめられる。
一瞬何が起こったのかわからなかった。



これは現実なのか、夢なのか。
私には分からないけど。




でも、





「レン…?」



確かめたい。







「…何?てゆうかキスしてくんねぇわけ?お姫様は王子を起こす役目あんじゃねぇの?」





完璧に戻った…?







「…逆よ馬鹿レン」




「うっせ。馬鹿言うな馬鹿○○」







顔は見えないけど、想像できるその表情に私は嬉しくなって思いっきり抱きしめ返した。







「あーもう馬鹿!!遅いのよ!3分で解決してきなさいよね!!こんなに心配させて…」





怒りとともに涙もとめどなく溢れる。
身体にあった穴が埋まって行く感覚がして、心から安心する。





「あのなぁ…無茶言うなよ。俺だって色んなキャラ作って頑張ったんだから」





「…はい?」



なんだって?
今私怒ってたし泣いてたけど一気に吹き飛んだ。
あれ?シリアスで幸せな再開とかないわけ?


いやいや、さっきまでそんな雰囲気だったと思うんだけど。







「なんかその方法が一番に思いついてさ」



「ごめん何言ってんのか全然わかんない」






「聞くか?俺の武勇伝」



「きっと武勇伝にもなんにもなんない話でしょ」





とか言っても私の話を無視してレンは回想し始めた。











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