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ふと、気づく事があった。 これはレンからの着信音なんじゃ…!!
そう思ったら、バ、と携帯を取り出し通話ボタンを押す。
びしょびしょになった制服のポケットから取り出した携帯は冷たかった。
「も、もしもし!!レン、レン!!」
目の前にレンが居るのに慌てて何を言ってるか分からなくなった。
自分が、こんなに焦るなんて思いもしなかった。
聞こえてきた声は聞きなれた声。
『…え。お兄ちゃんだけど…?』
「お兄ちゃん…?お兄ちゃん!!レンに何したの!?レンに変な事したの!?レンが、レンが…!!」
涙とか鼻水とかで多分私の顔はぐしゃぐしゃ。
話声だって酷いに決まってる。
それなのにお兄ちゃんは静かに聞いてくれてた。 でも一気に何かが爆発して矢の如く問い詰める。
「目、開いてるのに何も見て無いの、私も見えてないの、何か言ってる、マスターがって、マスターはお兄ちゃんでしょ!?何したの、レンに何かしたの!?」
今日は掃除だって言ってたのに!! 嘘だったんだ!!
またさらに涙は量を増し、目の前のレンすら見えなくなるくらい溢れ出てきた。
錯乱状態と表すのが妥当な私は狂ったように喋ってた。
『○○…落ち着いて、俺の言うことを聞くんだよ』
「イヤ!!!」
『…○○』
宥めるように、電話越しに柔らかい声が聞こえた。
目にたまるものをぬぐい、レンを見る。
…病院は駄目、でも、
お兄ちゃんなら…?
一度深呼吸をした。
『よし、いい子。あのね、○○…それは、俺にもなにも出来ないんだ。
ただウィルスの暴走が止むのを待たなくちゃならない。
○○のところに居たら自然と思い出してなんとかなると思ってた。
第一あんまり頼りにならないウィルスを使ったからね』
「な、に言ってるの…?」
『…成長剤ウィルスの本当の名前はテネブラウィルス。
心の闇を見つける為のウィルスなんだ。さっき調整したから暴走はしないはずだったんだけど…!』
心…? …闇?
『…誰でも心の闇はある。でもそれは大概の人は立ち向かって、向き合うんだよ。
それで自分の強さにしていく。…でもね、レンの場合、それは違った。
向き合うことはしなくて記憶を、自分の記憶を消すんじゃなくて閉じ込めたんだ。
心の奥に』
消したならまだましだったよ、というお兄ちゃんの声は酷く切なそうに聞こえた。
…ちょっと待って。 今、お兄ちゃんが何を言ってるのか分からない。
レンはまだ何か言ってるけど何か分からないくらい小さな声になっていた。
私もいつの間にかレンの服をぎゅう、と掴んでいた。
息が苦しくなり、呼吸をしてるのかすら分からなくなってた。
心臓は早鐘を打つばかりで心拍数は半端ないと思う。
「要するに、どういうことなの…?」
『その心の闇、心のウィルスをレン自身がなんとかしなくちゃ、レンは…
壊れる』
“レンは壊れる”
頭の中で幾度と無く反芻されるその言葉は、私の中の何かを割った。
カシャン、と携帯は床に落とされ、レンは何も言わなくなっていた。
□異端の結晶□
((神様、アンタなんてやっぱり信じない))
((でも、どうして今日は泣いてるの?))
((私の真似をするくらいなら今すぐ止めて))
next=act33.
20090309
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