ビルは私の隣で
スクランブルエッグを
食べていた。
信じられない!
今のこの状況が!


「今日薬草学だ。」
「そうだね!」


少し嫌そうに言う彼に
私は元気に返した。


「あ、でも夜は
 天文学があるね。」


天文学。
まさか覚えてるはずがない。
初めて話した夜に
ビルが言っていたように、
本当に彼は天文学を
選択した。
彼は覚えてはいないだろう。
あの日私は名乗りも
しなかったのだから。
でも天文学をとってくれた。
凄く嬉しかった。


「天文学、
 楽しみだなあ。」
「ラミ好きだもんね、
 星。」


手から滑り落ちた
スプーンがテーブルに
たたき付けられて、
甲高い音を鳴らした。


「大丈夫?」


ビルはスプーンを拾い、
私の手に戻した。
微かに触れた手が
温かかった。


「ラミは覚えてないかな?
 二年生の時、」
「覚えてる!」


ビルが覚えていたなんて、
思わなかった。
とっくに忘れちゃったんだ
って自分に言い聞かせて、
なかったことにしてた。

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