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そういえば、ミーティング何処でやるのか何時に終わるのか、なんて全然知らなかった。待ち合わせ場所も分からない。だから仕方なく、やっぱり部室前で待つことにした。普段のテニスコートからは想像もつかないほど静かだった。よく女の子達があのフェンスを囲むように応援しているのだ。私としては、応援は試合の時だけでいいと思う。それに煩い。まあ別に私には関係ないけど、と思った時、誰もいないはずの部室から物音が聞こえた。私はビクリと咄嗟に立ち上がった。誰かいるのか、と恐る恐る扉に近付いてみた。その瞬間ドアが開いた。


「っ!?」


思わず立ち退く。出てきたのは小柄な女の子だ。誰だこの子は。ドキドキと心臓が鳴る。すると女の子は笑顔を見せた。


「こんにちは。」
「こ、こんにちは…」


釣られて挨拶を交わすが、内心冷静じゃない。男テニにはマネージャーはいない、ってブン太は言ってたし、もしかして…盗難?


女の子はすぐに走り出し、校舎に向かった。その手には赤い携帯。ブン太の。って嘘!?マジで盗難!?


「仁王先輩!見てくださいよ!部室前に美人さんが!」


その時、上から声が降ってきた。何事かと見上げれば、窓際に黒髪のもじゃもじゃ頭。そして仁王君が現れた。どうやらあそこの教室でミーティングをしているらしい。黒髪もじゃもじゃは事もあろうに、私を指差している。ピンポイントで。だって周りには誰ひとり人間はいない。わ、私が美人!?嘘つけ!


「ああ、あれはブン太の幼なじみという名の奴隷ナリ。」


黙れペテン師。地獄に堕ちろや。隣の黒髪もじゃもじゃは興奮気味に奴隷!?、と聞き返している。違う。


「美人!?どこどこっ!」


そして教室内からの馬鹿丸出しの大きな声。次に窓際にやって来たのはブン太。


「おい赤也、どこに美人がいるんだよ。」
「あそこにいるじゃないスか。」


私を指差す黒髪もじゃもじゃ。隣で盛大に溜め息をつくブン太。失礼だぞ。


「お前あんなんがタイプなの?」
「はい!ストライクゾーンど真ん中!」
「趣味わり〜。」


黒髪もじゃもじゃの言葉は少し嬉しい。でもそれ以上にブン太の言葉は傷付く。ほんと、あいつ空気読めない。私の泣きそうな顔を見たのか、やべ、と口元を手で押さえていた。


「…それより!さっき部室に女の子が入って、ブン太の携帯、」
「ああ、これ?」


と言って取り出したのは赤い携帯だった。あれ、なんで?


「こないだマネージャー入ったんだよ。で、届けさせた。」


じゃあ今その教室にはさっきの女の子がいるのか。ブン太の携帯も届けられる。少しだけ、羨ましい。


「早く席につかんか!たるんどる!」


姿は見えないが教室から真田君の声がした。ブン太は私に手を振ってから、窓際から姿を消した。ブン太に振り返した手を、私は強く握りしめた。


―――


2011.12.26


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