06


予鈴が鳴った。食後のガールズトークを楽しんだ後、私はまりなと一緒にI組に戻ろうと教室から出た。廊下で遭遇したのはジャッカル君。汗だくになりながら、廊下に備え付けられた手洗い場で頭を洗っていた。まりなは先に行くと言って別れた。


「……髪がないと乾くの早くていいね。」


小突かれた。ジャッカル君に。痛いよ。君、腕に重りついてるんだからね。そこで一緒にサッカーをしていたはずのブン太が隣にいないことに気付いた。


「ね、ブン太は?」
「ああ、D組の女子に呼び出されてた。」


あ、またか、と思った。ジャッカル君はタオルで頭を拭いている。私は無意識のうちに顔を曇らせていたようだ。大丈夫か、と心配かけてしまった。


「丸井があんなに煩いほど元気なのは苗字のおかげだよ。」
「私?私、何もしてないよ。」
「自信持てって。」


自信なんて持てない。だって、私振られたんだよ。ってそんなことジャッカル君には言えないけど。


「あ、苗字さん!」


また宮本君だ。彼も同じ手洗い場で水を飲んでいた。食堂の前にはちゃんと給水機あるのにな。


「俺のシュート見た?」
「あー…ごめん。ご飯食べてたから。」


そっか、と残念そうに呟くと、宮本君はB組の教室に入って行った。するとジャッカル君が口を開いた。


「お前モテんのな。」
「モテないよ。宮本君はそういうんじゃない。」


そう言うとジャッカル君は、勇者だ、と呟いた。謎。


「お前、ブン太に守られてるんだよ。」
「はあ?」


守られた覚えはないぞ、と反論しようとした時、ジャッカル君の背後から水が飛んできた。私には掛からずとも、ジャッカル君の頭は再び濡れた。海坊主みたい。


「冷たっ!」
「お〜、ジャッカルいたのか!」


ジャッカル君の後ろにいたのはブン太だった。ブン太も水を飲んでるのか、と思いきや、水道口を指で押さえていた。


「てめっ!わざとだろ!」


水道口を指で押さえ、水を飛ばしたのだ。明らかにわざと。ジャッカル君が言うと、ブン太はへらへら笑った。


「悪かったって。でもお前髪ないから乾くのはえーだろぃ?」
「お前ら揃って!」


怒り心頭のジャッカル君に、私とブン太は笑った。ああ、ちゃんと戻れてる。ちゃんと笑えてる。良かった。


「名前、鍵。」


ブン太は制服のポケットから銀色の鍵を取り出して私に渡した。そしていつもの台詞を口にする。かと思いきや。


「今日ミーティングだけだから、新しく出来た駅前のコールドストーン行くからな。」


え、もはや決定事項?勝手に決めてしまうブン太に呆れつつ、財布の中身を確認してしまう私は重症みたい。


―――


コールドストーンはアイス屋さんです
結構高いです

2011.12.26


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