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黒板には、来週の球技大会の競技が白いチョークで書かれていた。帰りのホームルームを使って競技決め。先程、男子テニスには現役テニス部レギュラーのジャッカル君が選ばれて歓声が上がったばかりだ。なのに。なのに、なんだこの静けさは。


「頼むよ、苗字。I組の優勝がかかってるんだって。」
「押し付けは良くないって。そもそもABCって強すぎだから、多分三位にも入れないよ。」


黒板前の実行委員は何故か私に女子テニスを押し付けてくる。何故?私も一応小学校の頃はブン太の相手をしていたから、出来ないこともない。でも私はバレーに出たいのだ。テニスなんて個人プレーやだ。そして、優勝する気満々の実行委員にそう冷静に告げると、めちゃくちゃ睨まれた。


「なんてことを言うんだ!俺たちが目指すのはなんだ?もちろん、優勝だ!」
「勝手に言ってろ。でも私はバレーがいい。」
「わがまま言うな!」
「いや、君が押し付けてるだけだから。ていうか私弱いし。」


それに私ずっとバレーがいいって言ってたし。テニスなんて御免だね。現役女子テニス部と当たったらこてんぱんにされちゃう。


「でもこいつ、小学校の頃テニスやってたから普通に強いぜ?」


え。ちょっと待て。確かに。確かにちょっとはやってたけど。ジャッカル君、何余計なこと言ってるの。


「丸井の折り紙付きだし。」


突如騒がしくなる教室。主に女の子の声。うるさっ。そして黒板の前で目を輝かす実行委員の彼。いや、ごめん、多分それ嘘だし。ジャッカル君の方を見ると、ニヤニヤ笑っていた。よし、後で凜子に言い付けよ。


「苗字!頼んだ!女子テニスにはお前しかいないんだ!」


その言葉と同時に沸き上がる歓声と拍手。何勝手に黒板に名前書いてるの?決定してないから。私、本当に嫌だから。しかも拍手してる奴ら、あれでしょ?早く帰りたいだけでしょ?嫌だ…。


「苗字、悪かったって。」


ホームルームも終わって放課後。私は放心状態で机に頬をつけてぼーっとしていると、ジャッカル君がやって来た。もういいよ。決まっちゃったもんは変えられないし。


「つるっぱげ〜」
「な!スキンヘッドだっつってんだろ!」
「うるさ〜い!人の競技勝手に決めやがって!」


顔を上げると、ジャッカル君は申し訳なさそうに顔を歪ませていた。ブン太の折り紙付きなんて嘘っぱちじゃない。ムカつく。


「名前〜、」


そこにいつものアホ面で現れたのがブン太。なんか、頭に花が咲いてるよ、君。脳天気なブン太にぶすっとした。


「なに?なんで機嫌悪いの?」
「俺のせいで球技大会の競技テニスになっちまって。」
「え?名前テニスやんの?俺も俺も。」


いや、テニス部は基本テニスに出るだろうね。いいよ、ブン太は上手いから。私なんてド素人なのに。


「あ。じゃあ日曜にテニスする?」
「え?」
「ほら、あの近所の公園で。昔よくやっただろぃ?」


近所の公園とは、あの鉄棒しかない少し広めの公園だ。ブン太の誘いが嬉しすぎて、私は勢いよく頷いた。


「する!」
「ん。大丈夫だよ、お前テニス部でもないくせに上手いんだし。」


そう言って私の頭に手を載せた。その笑顔。その表情。私の大好きな、ブン太の手。嬉しい。ありがとう、ジャッカル君!


―――


2012.01.08


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