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次の日から、名前は吹っ切れたように笑っていた。それは明らかに作り笑いだった、そうさせているのは間違いなく俺だ。でも、凄く堂々としていた。


「ブン太ーっ!ね、お昼一緒に食べよ!」


20分休みの間に名前はここに来て、元気にそう言った。だから俺は即答で、いいぜぃ、と言えば、すっげー嬉しそうに頬を緩ませた。あ、多分この笑顔は本物。俺、こいつのこの嬉しそうな笑顔が好きだ。


「じゃあ昼休みまた来るねっ!」


名前は小さく手を振ってから教室から出て行った。すると隣の席の仁王はニヤニヤしながらこちらを見た。


「幸せそうじゃのう。」


どこが。こいつ分かんねえのか?名前の作り笑い。いや、つーか仁王に名前の表情の違いが分かってたまるか。俺は仁王と違って付き合い長いんだし。


「まあまあ、そうふて腐れなさんな。」


こいつやっぱうぜー。つーか胡散臭い。昔、赤也とテニス部がもし家族だったら、っつー話をした時、仁王は“近所の怪しいキノコ売り”に決まったんだ。あ、ちなみに父親は真田で母親は幸村君だぜ。ピッタリだろぃ?まあ、それはどうでもいいな。赤也か。あいつは何かとよく名前に絡む。昨日だって手洗い場で迫ってた。…思い出したらムカついてきた。いや、でも赤也が名前に必要以上に絡むのは、理由があるから。赤也の気持ちだって分かる。俺が悪かったから。去年の一時期は本当に仲が悪くて、一方的に恨まれてたな。最近はもう仲良くなって、休日は一緒にゲーセン行ったりするようになったのに。また同じこと繰り返すのかな、俺。


「ブンちゃーん。」
「うっせえ仁王。」
「眉間にシワが寄ってるぜよ。」
「うっせえ。」
「考え事?」
「うっせえって。」
「…ブンちゃんブンちゃんブンちゃーん」
「うっせえ!」


今のはイラっときた。ほっとけよキノコ売り。俺は机にあった消しゴムを仁王に向かって投げ付けた。しかし仁王はさらりと避け、消しゴムは後方へ飛んでいく。


「あ。」
「いてっ」


頭に当たった。髪型からして予想はついたが、振り返るとやっぱり赤也がいた。うわ、気まず。つーかなんでこの教室にいんだよ。赤也は床に落ちた消しゴムを拾ってこっちに来た。


「やったのどっちっスか?」


俺と仁王は同時にお互いを指差した。


「ブン太が投げた。」
「いや、仁王が避けたのが悪い。」
「避けなかったら俺の綺麗な顔に傷ができるところだった。」
「自分で言うな、自分で!きしょい!」


言い合う俺たちを見兼ねて、赤也は溜め息をついた。そして俺の机に置く。赤也は昨日のことなんてなかったかのように、普通だった。


「ところで赤也はなんでこの教室にいるんだ?」
「あー、委員会のことで。」
「委員会?お前なんか入ってたっけ?」
「違うんスよ!クラスの奴に今週だけ代役になれって。」


悔しそうに言う赤也は、普段と何等変わりはなくて、仲の良いただの後輩だった。もしや、昨日の赤也は赤目モードだったのか…?なんてアホなこと考えていた。


―――


まるっきりコンビが仲悪い理由は次回
キノコ売りの話は、まあ、立海大家族のあれっすよ

2012.01.04


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